劇場公開日 2021年12月3日

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「ホラー」成れの果て R41さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ホラー

2025年5月2日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

本気度マックスのドラマ
ネガティブな部分をクローズアップしているが、本当の人間というものを描いている。
加えて時系列に巡行している点がよかった。
過去の想い出そのものを描いていないのもいい。
この物語そのものの作りは若干古さを感じたが、あえてそれを最初に出しておいてのあの工場のシーンは見事だった。
あの復讐劇は小夜の心の澱の裏返しだが、その本気度が伺える。
そして、
その事があってのさらなる大どんでん返しは凄かった。
さて、
人の心の闇というのか深さというのか、この社会、世界の底に落ちないように、皆必死になってしがみついていることがわかる。
その底にいると皆が思っているマー君
彼の高校時代の話 4日学校を休んでも誰にも気づかれない。
皆、誰が最下位なのかを競うようにして生きている。
その事を、あれは妙義山だろうか? 群馬県のどこかさびれた街を舞台に描いている。
日本社会で未だ残る風習というのか、社会の構造というのか、それをこの作品が描いているのだろう。
この日本社会の描き方に古さを感じるのは、その考え方が古いからだろうか?
でもいまだにそれが残るという事実があるのだろう。
一切笑いのないシリアスな表現は、描かれている人たちの心の闇が本当に深いことを告げているようだ。
冒頭から、何があったのかを中心に徐々に核心へと迫っていく。
それが何だったのか? 割と早々に視聴者には想像できる。
冒頭
アスミが小夜にかけた電話によって、東京にいた小夜は意を決したことがわかる。
彼氏かと思った男性がなぜ一緒に群馬まで連れてきたのか?
この伏線は見事だった。
ユミエとマー君の存在はこの狭い世界を上手く表現している。
結婚したくてもできない世界がリアルにわかる。
そして、
何故フセノが毎晩酔って帰ってくるのか?
それはあの事件の詳細を取引先や上司たちの前で話をさせるためだったという設定も、空恐ろしさを感じさせる。
罪悪感を伴う過去の話は、話すことで幾分和らげられたのだろうか?
彼のプロポーズとアスミの気持ちが最後にとてもリアルに感じた。
それほどこの街は狭く寂れているのだろう。
コロナが始まったとき、県で誰が第1号か噂が広がったことを思い出した。
まさにこの事件のことは、あのコロナ罹患第1号のように、そして語り継がれるようにこの街の話題の頂点となったのだろう。
「あの人なら取られないと思ったのに」
アスミのこの言葉はまるで番町皿屋敷のお菊のように感じた。
それを助長するかのような最後のメイクシーン まるでお岩さんだ。
フセノはあの事件を出汁に生きるしかなかった。
この街を出ることもなかった。
その事件の姉アスミとの再会と恋愛への発展は、彼にとっての罪滅ぼしの要素もあったのだろう。
妹への謝罪は、避けて通ることはできなくなった。
姉との婚約は、おそらくそのための布石だったのだろう。
自らその道を選択してきたことを、あの工場跡地で思い知ることになる。
この時の小夜とフセノの会話は本気故に解釈が難しい。
小夜は最後に「本当に許さないよ、私」とくぎを刺すように言った。
この言葉の真意がうまくつかめない。
その前にはフセノに対し「私も安心した。フセノさんに会って、この人とならいつバレるかビクビクして生きる必要ないから」と言っている。
そして復讐しようとしたことを「ごめんなさい」を連呼して謝った。
フセノも「怖かった。あんな顔してたんだオレ」と、当時のことを肌で感じる。
事件のことを知る人物に会うのが怖くて東京へ行った小夜。
逃げるように生きている自分自身といつか対峙しなければならないことを芯ではわかっていたのだろう。
それを復讐という手段で果たそうとしたが、奇しくも自分自身の中の夜叉を知ることになる。
暴力に対する暴力では何も解決しないことがわかった。
同時に、お互いがお互いの気持ちを理解したのだろう。
そしてこの場合、小夜がフセノがしたことを「許さない」ことで、フセノはこの先もその事を忘れずにいることで人間味を保つことができるということなのだろう。
そしてフセノはもうこの街ですべきことを完了させたのだろうか。
アスミに何も言わずに立ち去ることを決めたのは、何も言えないからということもあるが、彼の中ですべてが「終わった」からだろうか。
アスミへの想いは、恋ではなく罪滅ぼしだったことがはっきりしたのだろう。
アスミと一緒に住まなかったことが、やはり答えとしてはっきりわかったからだろう。
彼が出張と言って家を出た時から、もう一つ何かあると思ったが、やはりマー君が登場した。
空恐ろしい。
「成れの果て」
このタイトルが最後に傾いたのは実はアスミだったというのも面白かった。
この狭い町の底辺
決してそんな場所には落ちないと必死になって縁に掴まっている人々の姿が目に浮かぶようだ。
「私はまだマー君より全然上だから」
そう言ってメイクセットを取り出しメイクするアスミ
まさにお岩さん
この作品、ヒューマンドラマっぽく作ってあるホラーだと思った。

R41
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