「刺さった。」成れの果て みなさんの映画レビュー(感想・評価)
刺さった。
登場する人間たちが全員「生きて」いた。
脚本の巧妙さや演出・カメラワークのこだわりも随所から感じるが、個人的に特に称賛したいのはキャスティングの素晴らしさ。
なかなか幸せになれる役の少ない萩原みのりがこういった役を演じるのは上手だということは想像に容易いが、その期待をも斜め上に超えていくほど小夜からは凄みを感じた。
彼女の放つオーラ、金髪から想像される背景、様々な色を持つ眼差し、どの場面でも美しいのだが、美しすぎないように撮られているのにも好感を持った。
そして柊瑠美の文字通り「体当たり」で演じたあすみもその存在から滲み出る説得力に痺れる。
なんとも言えない幸の薄さから、ラストに向けての彼女の変化も見所のひとつ。
どうしても克服できない根深いコンプレックスを抱えている姉、振り回される人間という意味ではもう一人の主人公だと感じる。
三番手以降の出演者も秀逸。
木口健太のこれまた絶妙なクズさ・真摯さが布施野という人物の背景を妙にリアルに想像させる。
狂気じみた行動もその苦悩を感じられて、見ていて興奮した。
後藤剛範はこの作品で非常に重要なポジション。
息の詰まるシーンが続く中、エイゴの出てくる場面はほっこり箸休めになったり、クライマックスを担ったり、今作のテーマともなるような台詞を言ったりもする。
チャーミングな表情も恐怖でしかない行動も、上手すぎる。
秋山ゆずきもピンポイントで大事な役割を果たした。
なんとも耳障りな声に話し方(とても褒めている)、出演シーンは少ないが強烈な印象を残す。
田口智也も、体型とキャラクターの印象が強いが、人との関係性を表す繊細な表現が上手い。
存在自体の愛らしさがスクリーンから伝わってくる。
梅舟惟永はなかなかいない雰囲気の漂う俳優。
冷静に考えれば姑息でなかなか厄介な友人だが、独特のテンポでポップに存在していた。
花戸祐介も非常に上手いし遊び心のある俳優だと感じた。
こういう先輩いる、というか、いたら嫌だけど、自分に正直なキャラクターを巧妙なバランスで描いていた。
個人的に花戸祐介からは目が話せなかった!
人によって、あるいはその日のコンディションによってもどう感じるか変わりそうな作品。
どの登場人物の視点から見るかによっても印象が違いそう。
深く刺さる人もいれば酷い嫌悪感を抱く人もいると思うが、この作品を観て特に何も感じない人とは趣味が合わなそう。