「主人公に魅力がない」ドアマン 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
主人公に魅力がない
北村龍平監督は、よほど方々に遠慮しながら本作品を撮ったに違いない。元海兵隊の軍曹が活躍する映画だが、任務に失敗したトラウマを描きたかったのか、それとも家族の確執を描きたかったのか、それとも他の何かを描きたかったのか、はっきりしない。だからストーリーが間延びしている。アクション映画で間延びしたシーンがあるのは致命的で、主人公アリの強い意志も感じられなければ、危機感もなかった。
トラウマを克服するのであれば、失敗した任務のように誰かに判断を委ねるのではなくて、すべて自己判断で行動する、撃たれる前に撃つ、といった行動原理になるはずだ。ところがアリは、撃てる場面で撃たなかったり、武器を捨ててしまったりする。おまけに追っ手が迫っているのに、小僧の無意味な話を長々と聞く。家族の確執はこの際どうでもいい。人間関係の説明など不要だ。観客の興味はそんなところにない。
強大な敵に対して、海兵隊の訓練と実践で培ったスキルで危機を切り抜け、目的を果たす。ときには追い詰められ、ときには敵を罠にハメる。そういった場面がジェットコースターのように次々に映し出されるのを観客は期待しているのだ。
しかし本作品の敵はというと、ジャン・レノ演じる裏社会の画商が雇った、そこらへんのワルが数人と、悪徳警官だ。強大な敵でもなんでもない。せめて大勢の元傭兵だとか、元CIAのエージェントだとかにしてほしかった。
悪徳警官との格闘場面もいただけない。いくら男女の差があっても、相手を無力化するための近接格闘術を体得している海兵隊員が、逮捕術しか学んでいない警察官相手に、素手の格闘で苦戦するはずがない。数秒で勝てるはずだ。このシーンもリアリティに欠けていた。
細かいところを言えば、指摘したい点が他にもいくつかあるが、まとめて言うと、主人公アリの情けなさが目立ったということだ。元海兵隊員らしさがない。つまり主人公に魅力がないのである。おかげで鑑賞中に何度も時計を見てしまった。