「コールドスリープ無しの数十年は辛い」ヴォイジャー Minaさんの映画レビュー(感想・評価)
コールドスリープ無しの数十年は辛い
79年公開の「エイリアン」ですらコールドスリープを使用していたSFの世界において、86年間という1人の人生以上の期間を費やして目的地まで行くという設定が逆に斬新である。それ故に子の世代に全てを伝える事が出来る年齢層、つまりは子どもを宇宙に送るという人道的にアウトな方法で数十年を乗り切ろうと言うのである。 どうしても成長すれば様々な物に触れ、大人への階段を上っていく事になるのだが、本作のテーマはズバリそこだ。暴力、性、等に直結する感情部分を抑制させられていた事に気が付いた彼らが新たな自分を見つけ・・・・という形の物語になる。本編でのここまでの所要時間は僅か数分。107分の本編の中では仕方の無い事だが、尺の短さが影響してなのかこの事実に対する何の衝撃も感じなかった。
そこから始まる新たな生活というのは想像の通り混乱を極める。暴力衝動や性衝動が解き放たれた彼らは取り返しのつかない事態を巻き起こしてしまうのである。本編でも少しその様な描写があるが、人類はこれまでにも戦争など様々な争いの上で犠牲を払ってきた。それを知らない乗組員も自然と争いを起こしてしまうのだが、なんだかこの狭い宇宙船の中で人類の歩みの負の部分をなぞったかのように思えてしまう。結局怖いのはエイリアンでもゾンビでもなく人間と言う事なのだが、それを目的地まで移動中の宇宙船内で描いた事は面白い。中々斬新である。だが、数十人いる乗組員の中で発生した派閥もそれぞれがどのようにしてそちら側に付いたのかが分かるようなドラマが必要だったのでは無いかと思う。抑圧剤が切れた瞬間体たらくになり、唯一熱心に取り組もうとした指揮官の主人公がウザいから反抗的な態度をとり出したようにしか見えず、全体的に軽いのが本作の難点だろうか。それが最後まで釈然としないままエンディングとなった為、SFとてある程度のドラマが必要だと改めて感じさせられた形になった。また、めちゃくちゃになった船内、その後数十年問題は起きてなさそうだが、船員の安全も含めてしっかり航行出来ている事に対してもただた驚きであった。