「庵野秀明みたいなジョニーデップ。」MINAMATA ミナマタ まゆうさんの映画レビュー(感想・評価)
庵野秀明みたいなジョニーデップ。
写真家ユージーンは、LIFE誌の仕事で米軍に従軍し、沖縄戦を取材していた時に、日本軍の迫撃弾が炸裂。左腕をひどく損傷し、顔面の口蓋を砕いた。その時26歳。歯の噛み合わせが悪くなり、ほとんど食べられなくなったそうだ。
妻アイリーンが言うには、「毎日10本の牛乳と、オレンジジュースに生卵を入れて混ぜた飲み物が栄養の補給源だった。それとサントリーレッドの中瓶を1日1本、ストレートでチビリチビリ飲んでいた」。
映画でも描かれているが、水俣病患者や支援者とチッソ労働組合との激しい衝突で、ユージーンは左目を負傷。失明の危機にさらされ、コンクリートに頭を強く叩きつけられた後遺症で激しい頭痛に苦しんだ。被写体をレンズを通してとらえながらシャッターを切る時、心の深いところに刻み込まれて、心が無傷ではいられないだけでなく、その身もボロボロになりながら数々の写真を世に送り出したカメラマンだった。
ユージーンの水俣以外の作品をネットで見たが、絵画のようだった。非常に作り込まれた感じの作品が多かった。「入浴する智子と母」がピエタを思わせるのも、最初からそういうイメージがちゃんとあって撮られたものであることが分かる。その撮影スタイルに賛否両論あったかもしれないが、見る者に訴えかける強烈な一枚であることは、言うまでもない。
映画を観賞後、色々記事を読んでいたら、この入浴の作品が現在では簡単には見られないこと(実質、封印されている状態)、その経緯や、アイリーンさんの思い、上村夫妻の思いを知り、非常に考えさせられた。智子さんの父、上村好男さんは2022年10月5日に亡くなっている。
アイリーンとユージーンが出会った時、彼女はスタンフォード大学の学生で20歳、ユージーン51歳。「ニューヨークでアシスタントになり、一緒に暮らして欲しい」と熱烈に口説かれ、アイリーンはそのまま大学には戻らなかったそうだ。
10年程前、水俣に出張に行った関東出身の友人から聞いた話だが、居酒屋でチッソの社員が飲んでいると、「あんたらはいいね、人をあんな目に合わせて酒を飲んでいるなんて」と言われるそうで、それを聞いた時は根深いものを感じ、まだ終わっていないのだと思ったことを覚えている。2006年には損害賠償訴訟でチッソが時効を主張、非難を浴びている。
石牟礼道子の「苦界浄土」を、読もう読もうと思いつつ、なかなか気持ちを整えてからでないと手にするのが難しく、いまだに読めないでいる。映画を見て、必ず読む、と思った。
あと、どうでもいいことなんだけど。
ほんとにこの流れで…だけど。
ジョニーデップが庵野秀明にしか見えないよ…
映画自体は、関心をもつきっかけとして良いと思う。