「君が神様に愛されて、早く願いが叶えられますように。」MINAMATA ミナマタ 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
君が神様に愛されて、早く願いが叶えられますように。
三年現地に住んで、被害者を撮り続けたユージン・スミス。ユージンから見たミナマタの現実。
明らかに日本じゃないロケ地(セルビアとモンテネグロらしい)や漁師たちの振舞いに抱く違和感は、日本人として当然あるのだが、待てよ、これを日本のどこかで撮影しようとしても横槍が入ったか?と勘ぐってしまう。
定期出演しているラジオ番組での町山智浩氏の解説(YouTubeにもあがってます)によると、現実はこの映画よりもすごかったそうだ。ストーリーとしてよくできているし、見せ場(当人にとったら災難だが)もある。それらは、脚色かと思ったら結構現実に起きたものらしい。ユージン自身も、実際の人物のほうが破天荒だったみたい(ユージンとアイリーンの関係もちょっと美化されているようだがそれはいいでしょう)。そして、チッソ社長の「彼らはppmに過ぎない。社会にとっては無に等しい」という本音が漏れた暴言には、さすがの飲んだくれも怒りが湧いたのだろう。そのパッションが被害者たちにも届いた。彼らの協力なしに、当時の水俣で写真を撮ることなんてできないだろうなあ。そして、「ピエタ」に擬された母子の入浴写真が訴えるものが、キリスト教圏の人々には強烈だったことと思う。
僕自身幼いとき、TVで水俣関連の報道はあった。それは大人の世界の話で、子供には知らないほうがいい話題に感じていた。今では、こんな企業活動はあり得ない、と、思うかもしれないが、なんのことはない、フクシマだって似た体質が生んだ人災だ。それを、他人事と思わずに、自分は何もしていないと悩む前に、ただ知る行為としてこういう映画を観る意義は大きい。たとえ虚実混同されてると言え、それを咀嚼して身に蓄えるのは自分自身だ。