「希望はそこにある」シン・仮面ライダー 終焉怪獣さんの映画レビュー(感想・評価)
希望はそこにある
舞台挨拶の全国最速上映を鑑賞。
庵野秀明監督のシンユニバースも一応は最後となりました。
あの鬱病から持ち直し、好きな作品に監督として携われている事に安堵しております。
今回、シン・ゴジラやシン・ウルトラマンの時のようにストッパー役の樋口真嗣さんがいない。
その為、庵野秀明監督が暴走しています。
私は所謂、平成ライダーからのめり込んだ世代ですが、昭和ライダーも愛しております。
日々、愛読書である村枝賢一先生の仮面ライダーSPIRITSで胸を熱くしております。
私的に仮面ライダー1号に焦点を当てた最も好きな作品は、和智正喜先生の小説「仮面ライダー 1971-1973」です。
初代の「哀愁」と「孤独」を強く感じさせる素晴らしい内容となっています。
そして今作のシン・仮面ライダーもまた石ノ森章太郎先生のテイストが強く、漫画版をベースとした「孤独な仮面ライダー」を見事に表現しておりました。
以下、本作の良かった点と悪かった点を。
【良かった点】
○テンポが良い
シン・ゴジラ、シン・ウルトラマン同様に鑑賞者を飽きさせない為にとてつもなくテンポが良いです。
2時間、全く飽きが来ませんでした。
○リファインデザインが秀逸
デザインに出渕裕氏が参加されているだけあって
私もお気に入りである「仮面ライダー THE FIRST」のような洗練された造形美に惚れ惚れします。
○痛みを伴う戦闘描写
PG12指定にしたのは英断だと思います。
「死と隣り合わせの空気感」をしっかり描写してくれています。
冒頭からの流血シーンも戦いは綺麗事ではなく、純粋な殺し合いなんだと感情に訴えてくる。
吐血シーンや足の破損も隠す事なく、しっかりと描かれている。
仮面ライダーは市民から賛美されるヒーローではない事を思い知らされる。
私が好きな仮面ライダークウガ同様に痛みを伴う戦闘描写に恐ろしくも美しさすら感じる。
CGばかりに頼らず実体のある生身の戦いも良かった。
○敵性オーグとの戦闘
クモオーグから始まり、全ての戦闘シーンが秀逸。
実写とCGが上手く融合しており、「この画を観たかった!」と思っていたシーンばかり!
コウモリオーグ戦のサイクロン号で上昇し、高高度からのライダーキックは堪らない!
鑑賞後にお気に入りになったハチオーグの高速戦闘や
工業地帯での1号vs2号の空中戦闘描写も最高でした。
最も盛り上がったのはWライダーvsショッカーライダー戦ではないでしょうか?
CG主体ではありましたが、閉鎖空間であるトンネル内でのサイクロン号疾走が痺れました!
ライダーダブルキックが炸裂した時は、泣いてしまいた。
最後、チョウオーグ戦が満身創痍で取っ組み合いなのも泥臭くて好きです。
○CG・VFX
すっかり邦画業界御用達でお馴染みの白組。
かなり粗さもありましたが、それでもファンが観たい映像を見事に表現してくれていたと思います。
CGが批判されるのは覚悟の上だったでしょうが、ライダーの格好良さを追求する為に恐れず表現してくれた事に感謝。
暗所での戦闘もCGの粗さを隠すだけではなくライダーの目を輝かせる事によって美しさを印象付けた。
○相変わらずの情報量
庵野秀明監督作品らしく登場人物の専門用語を交えた説明口調だったり、頭に入って来ない長い単語(プラーナ強制排出補助機構付初期型とか)だったりと視聴者に叩き付ける情報量の波が心地良く感じました。
この点は庵野秀明監督の作風なので合わない人もいるかと思いますが、日本語と云う奥深い言語の文学的美しさを噛み締める事が出来るのは貴重な事。
改造人間をオーグメンテーションと言い替えるのも庵野秀明監督らしい。
○容赦なき原作リスペクト
庵野秀明監督と言えば、原作を愛するが余りに過剰なリスペクト要素を盛り込んで来る事があります。
今作もなかなかにコアなオマージュが見受けられました。
石ノ森章太郎先生の漫画を原作としており、他にもロボット刑事やイナズマンのオマージュも。
○BGM
今作も鷺巣詩郎氏が担当するだろうと思っていましたが、まさかの岩崎琢氏に驚き。
とても静的ながらも耳に残る楽曲でした。
ライダーの心情を表現したかのような楽曲でとても切なさを覚える。
戦闘シーンにおいても場面にマッチしており、観ている我々の感情を否応なしに掻き立てる。
○ロケーション
初代仮面ライダーと言えば美しいロケーション。
時には牧歌的に、時には退廃的に感じさせる情景を背景に命を懸けた死闘を繰り広げる。
それは今作も同様で庵野秀明監督の並々ならぬ情熱を感じた。
湖畔に立つ姿、工業地帯、沈む夕暮れ...
いずれも印象に残る場所ばかりで聖地巡礼に赴きたい気持ちになる。
○ゲスト
多くの方が予想したであろう竹野内豊さんのゲスト出演。
今作は更にシン・ウルトラマンより斎藤工さんも出演。
これは予想外でした!
しかも立花のおやっさんと滝だったとは...
サソリオーグの長澤まさみさんには、笑わせて貰いました。
○ヤマアラシのジレンマ
庵野秀明監督が描く人間関係は、全てヤマアラシのジレンマに集約されています。
それは石ノ森章太郎先生が創造した初代仮面ライダーの人間描写との親和性がマッチしていた。
本郷とルリ子、ルリ子とイチロー、本郷と一文字...
誰しもが、相手を理解したいのに近付けない。
イチローが瞑想状態なのは、他人と関わることを拒絶し、殻に籠った人間として描かれているからではないか?
その象徴として蛹状態にあるチョウオーグだったのでは?
対して本郷は逆だった。
ルリ子をサイクロン号の後ろに乗せて、隣同士になる事で肉体という大きな壁を感じながらも他人と関わり続けようとする人物として描かれていた。
人間の絶妙な距離感を上手く表していた。
○完璧なキャスティング
主演の池松壮亮さんや浜辺美波さんだけではなく、
柄本佑さんや西野七瀬さんなど全員がはまり役でした。
どのキャラクターも好きになりました。
特に一文字隼人役の第2号ライダーである柄本佑さんが一番お気に入りになりました!
○テーマ性
「人類の幸福とは?」「人間に戻れない恐怖と孤独」「愛する者を失った喪失」...
人類にとって普遍的なテーマを取り扱っており、
庵野秀明監督らしく哲学的問答が心地良かったです。
今回のショッカーの思想・目的も漫画版と同じであり、半世紀以上前から石ノ森章太郎先生が予知していた状況の中で私達は生きている。
この複雑化した社会に生きる私達も精神が複雑になり、何もかも投げ出したい衝動だったり、相手を攻撃したくなります。
日常に疲弊している人々にとって緑川イチローの、ハビタット世界に全人類の魂を導き、愛する母との再会、暴力の根源である肉体を捨てさせようとする計画を否定出来ない。
ある意味、ショッカーの目指した幸福は正しかったと思ってしまう。
相手の心に寄り添う難しさを痛感。
○マスク
仮面ライダーのマスクには、改造手術の後を隠す意味だったり、涙を隠す意味があります。
今作では生存の為に暴力を厭わない好戦的になるように感情をコントロールする機能がありました。
そんな忌むべき象徴たるマスクが、最終決戦でイチローにルリ子の願いを伝える役割を与えた事に感無量。
○ラストシーン
本郷とイチローの対比は見事でした。
同じく不条理の暴力で愛すべき人を失った。
しかし力への渇望と使い道は違った。
チョウオーグ戦は絶対量が違うプラーナを消費させる耐久戦。
最後の格好良さや派手さを捨てた取っ組み合いは、不条理の中で最善の道を探す両者らしくて良い描写だと思う。
ここでの本郷の台詞「僕は他人がわからない。だからわかるように変わりたい!」が凄く胸に響きました。
世界を変えるより、自身を変えていく。
実はこれこそが今の世の中に大切な事のように思えました。
石ノ森章太郎先生の漫画版と同じく本郷は命を落とす。
しかし魂がマスクに宿り、一文字と語り合いながら物語が終わる。
孤高ではあるが、孤独ではない。
仮面ライダーは不滅である事を表現した希望あるラストシーンで私は泣きました。
【悪かった点】
○CG・VFX
良かった点にも書いたので矛盾はしておりますが、
もう少し頑張って欲しかった部分がありました。
白組も機械の描写は素晴らしいのですが、生物の表現については課題を残します。
しかしそんなに酷くは無かったのでそこまでマイナス点ではないです。
日本はゲーム等、フルCGならばアメリカ以上のクオリティを表現できますが、実写映画だと難しい部分もありますね。
○台詞が聞き取りづらい
所々、台詞が聞き辛かったです。
庵野秀明監督作品としては毎度のことながら日常では使わない単語、専門用語を交えた会話劇をするので俳優の皆様にもなかなかにキツい。
滑舌が悪いと言うより、早口過ぎて口が回らない状態。
俳優の皆様、お疲れ様でした。
【最後に...】
鑑賞後は様々な気持ちが沸き上がって来ました。
繰り返しになりますが、仮面ライダーだからこそ感じられる哀愁、苦悩、孤独、退廃...
他の等身大ヒーローには無い文学的な、破滅的な美学を仮面ライダーは持っています。
ゴジラ、ウルトラマン同様にあの戦争を体験し、
戦後を生き抜いて来た先人達だからこそ持ち得た思想や哲学、ヒーローへの願いが仮面ライダーに込められている。
このシン・仮面ライダーも同じです。
庵野秀明監督を始め、作品に携わった全てのキャスト・スタッフの皆様に感謝します。
赤いマフラーを靡かせて疾走する仮面ライダー。
その姿は、やはり孤独である。
しかし不思議と希望を抱かせてくれる。