劇場公開日 2023年3月17日

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「オタクの、オタクによる、オタクの為の映画を超えて、本来普通の社会派と言われる映画が取り組むべき映画です」シン・仮面ライダー あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0オタクの、オタクによる、オタクの為の映画を超えて、本来普通の社会派と言われる映画が取り組むべき映画です

2023年3月20日
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鑑賞方法:映画館

PG12の指定は妥当でした
小学生以下の子供には見せたくない映像が多くあります

公開日が一度延期されて春休み直前になったのは、東映の興行の目論見としては仮面ライダーで育った親が子供の手を引いてというものを狙っていたのだろうと思います

でもPG12指定でその構図は崩れました
庵野監督がやり過ぎた?
違うと思います
確信犯だと思うのです

そもそも初代仮面ライダー世代はもはや60代、再放送世代でも50代のはず
親が子供の手を引いて連れてくるコンテンツなら平成ライダーでなければならないことは庵野監督なら百も承知のはず

最初から本作は子供は観に来ないという構想だったのだと思います
オタクの、オタクによる、オタクの為の映画そのものになっています

オタクが、子供の頃にオリジナルをみて、子供向けの内容で残念であった部分を脳内で、子供なりに高度で大人向けの内容に補完していたものにアップグレードする
それがシン・シリーズなのだと思います

その定義によるなら本作はシン・仮面ライダーそのものです

ではオタクの中だけで閉じてしまった同人的製作物に過ぎない?

そのようなものでも巨額の資金を集め投入できる名声と実績を庵野監督は確かに獲得しています

では何故、庵野監督はそれ程の成功を収め支持を受けて来たのでしょうか?

オタクが一般化して市場が大きくなった?
それも多少はあるかも知れません
しかし今までのシン・シリーズは社会現象になる程の注目と支持をオタクでもない一般大衆から受けていたからです
そうでなければ、あれほどの成功は説明がつかないのです

オタクの、オタクによる、オタクの為の映画であることは、今までのシン・シリーズも間違いなくそうです

しかしオタクとは言い切れないライトな層や、普通の一般大衆が押しかけるような大ヒットになったのは、彼らの心に刺さるものが密かに仕込まれていたからだと思うのです

シン・ゴジラは怪獣映画のようで、日本人とは何かがテーマであったと思います
シン・エヴァンゲリオンは、21世紀における人の生き方ではなかったでしょうか
シン・ウルトラマンでは日本人の安全保障観についての考察だったと思うのです

単なる特撮映画を観て来たといいながら実はこのようなメッセージが仕込まれていて、私達はそれを確かに受け取っていたからこそ、社会現象的な大ヒットにまでなったのだと思うのです

では本作では一体どんなメッセージが仕込まれていたのでしょうか?

自分にはシン・ウルトラマンのメッセージがさらに深化したものであったように思われてなりません

相手を一撃で殺傷してしまう力
その力を持つ事を恐れる
その力を行使することを恐れる

しかし力を持たなければ、自分も、愛するものも守ることは出来ないのです

力とは暴力そのものです
暴力で実力行使すれば、どうなるのか?
その現実を本作は映像で冒頭から観客に突きつけます
これが本作のテーマです

しかしこの恐ろしい暴力の力を私達が持たなければ、理不尽な暴力をふるう相手には対抗できず、ただ殺されるだけなのです
いくら口で平和的に説得を試みても通じない相手は現実にいる
その現実を見つめて生きていく
それが仮面ライダー本郷猛です

暴力に対抗しうる強力な力を手に入れた時、それをどう正しく制御して行使していくのか?
その責任の重さと辛さ、そして怖ろしさを知る時がきた
そのようなメッセージが本作のテーマだったと思うのです

だからあれほどの過激な暴力シーンが不可欠だったのです
絶対に必要な演出だったのです

ロシアのウクライナ侵略
中国の軍事的圧力
北朝鮮の弾道ミサイルの脅威

こういったことを受けて、日本も専主防衛の範囲を拡大して反撃能力を保有する事が政府で正式に決定的されました
本作の製作期間中のことです
明らかに連動していると思います

だから本作は賛否両極端に評価が別れるのだと思います
例えこの隠されたメッセージを大抵の観客が読み取れなくても、このメッセージは意識の下で確実に伝わっているのです

本作が突きつけるメッセージを肯定出来ない人は、低評価で斬って捨てる他ないのです

自分は根っからのオタクです
本作のディテール、くすぐられる様々な無数の要素には感激し通しでした

でもなんとかオーグの考察なんかしても何の意味もないと思います
ただのオタクの戯言です
一見もっともらしければそれでよいのです
この程度で十分だという庵野監督の割り切りすら感じました

シン・シリーズがこのように重いメッセージを発してきたことは一体なぜなのでしょうか?

それはオタクの、オタクによる、オタクの為の映画を超えて、本来普通の社会派と言われる映画が取り組むべき映画のはずです

本作は、日本人の、日本人による、日本人の為の映画そのものだったのです
シン・シリーズはそれを志向しているのです

その意味で本作はまさしく、シン・シリーズの本道にある作品であると思います

変わるモノ
変わらないモノ
そして、変えたくないモノ

このポスターのキャッチフレーズ
もう意味がお分かりだと思います

継承、孤高、信頼

特撮のこととは全く別のダブルミーイングだったのです

あき240
kazzさんのコメント
2023年4月15日

今も昔も、スーパーヒーロー物語は敵と戦い、敵を倒します。
敵=悪を倒さなければ、平和を得られません。
そういう物語を作る人の中には、力を肯定してしまうことのジレンマがあったかもしれません。
あき240さんの本作に秘められたテーマの考察、なるほど納得です。
石森章太郎がマンガで描いてきたヒーローは皆、闘うことが本意ではなく悩み続けていました。
力を正しく使う…難しい課題ですね。
シンシリーズ全般の分析にも、感心しました。

kazz
LSさんのコメント
2023年4月6日

力とその行使についての解釈、共感しました。読み応えあるレビューをありがとうございます。

LS