「あからさまな『ショムニ』オマージュは単なるツカミ、四半世紀前の実話をベースにどんでん返しを繰り返しながら加速する社会派サスペンスコメディ」サムジンカンパニー1995 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
あからさまな『ショムニ』オマージュは単なるツカミ、四半世紀前の実話をベースにどんでん返しを繰り返しながら加速する社会派サスペンスコメディ
舞台は1995年、大企業であるサムジン電子に勤める高卒の女性社員達は壮絶な競争を勝ち抜いて採用された優秀な人材であるにもかかわらず大卒社員とは明確に区別され、強制されたダサい制服を着て任される仕事は書類整理にタバコの買い物や灰皿掃除、朝イチのコーヒー準備といった雑用ばかり。そんな折会社からTOEICで600点をクリアしたものには“代理”となる資格が与えられる通達が出され、一念発起した彼女たちは社内の英語クラスで猛勉強を開始。そんな彼女たちの一人、生産管理3部のジャヨンは工場長から昇進して本社にやってきた常務の私物を整理するために工場に赴いた帰り道に工場から川に有害物質が排出されていることを目撃、マーケティング部のユナ、会計部のボラムとともに独自調査を開始するが、そこに横たわっていたのは想像を絶する巨大な闇だった。
冒頭に奏でられるシンセの音だけで観客を四半世紀前に瞬時に誘導。当時の日本にあったものと全く同じ理不尽に翻弄される高卒女子達の姿を軽快に描写しながら、当時その理不尽に乗っかって胡座をかいていたアラフィフの神経に豪快なドロップキックをかましてきます。些細な疑問から始まったジャヨン達の孤軍奮闘はあからさまに『ショムニ』オマージュに満ちていますが、予定調和を裏切るどんでん返しを重ねながら徐々に加速していくサスペンスはそんな民放ドラマ由来の安いドラマツルギーを早々に離脱、こちらが勝手に想定していた粗筋を序盤で華麗にスルーして辿り着く結末に盛大に泣きました。
ググってみたところ、本作のモデルになっているのは1991年に発覚した斗山電子フェノール水道水汚染という実際の事件である模様。実際の事件をエモーショナルなドラマに仕立て上げるのは韓流の得意技ですが、今回はあくまでコメディ。金魚の名前にまで社会派映画オマージュを滲ませる徹底したエンタメスピリットに尊敬しか湧いてきません。
男性優位社会に果敢に挑む女性達は皆眩しくてしょうがないわけですが、個人的には巨悪の陰謀を暗算で読み解く会計部のメガネっ子ボラムを演じるパク・ヘスにハートを抉られました。物凄い才能をくだらない部署で盛大に腐らせている彼女に目をかけ“人がこれくらいだと決めた世界が全てではない。とにかく自分が楽しいと思うことを全力でやりなさい“と優しく語りかけるポン部長との師弟愛にもガッツリ持っていかれます。
本作の英題は“Samjin Company English Class“。このタイトルがガツンと効いてくる展開に胸がスッとすること請け合いの大傑作です。