「どうせなら『パーム・ストリングス』とセットで観たい、新たなタイムリープものの傑作」隔たる世界の2人 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
どうせなら『パーム・ストリングス』とセットで観たい、新たなタイムリープものの傑作
舞台はニューヨーク。グラフィック・デザイナーのカーターは知り合ったばかりの女性ペリーのベッドで目覚める。それなりにムードのある朝を過ごしたものの昨夜放ったらかしにしてしまった愛犬ジーターが気になってしょうがないカーターは帰宅しようとペリーのアパートを出て一服しているところで警官に呼び止められる。そつなくやり過ごそうとするカーターだったがタバコの匂いがおかしいと因縁をつけ始めた警官に所持品検査を求められたところで揉み合いになり、警官に首を押さえつけられて窒息して意識を失ってしまう。しかし次の瞬間目覚めるとそこはペリーのベッドの中。妙な気分で同じような朝を過ごしたカーターはまた警官に出くわし殺されてしまう。そしてまた目覚めると・・・自分が同じ朝に閉じ込められていることを悟ったカーターは何度も帰宅を試みるが・・・。
カーターが清々しい朝にタバコを吸いながら聴いている曲はBruce Hornsby & The Rangeの”The Way It Is”。高らかと響く美しいピアノのイントロがカーターの気持ちをこれでもかと鼓舞するも、その後に続く鋭い社会風刺に貫かれた歌詞がその後のカーターの運命を暗示していることに気づいた瞬間に鳥肌が立ちました。
“That's just the way it is
Some things will never change
That's just the way it is
Ah but don't you believe them?”
物語はこのサビが語りかけていることを延々と繰り返すわけですが、その最中ニューヨークの街並みを俯瞰するカットにチラッと映り込むのが昨年5月に警官に窒息死させられたジョージ・フロイドの名前。あの事件以前から延々と繰り返される悲劇がなぜ起こるのか、その真相に辿り着いたカーターの決意がズッシリ重い29分です。
そして本作のテーマを裏打ちするのがエンドクレジット。物語はこれのイントロに過ぎないと言っても過言ではないくらい重要ですので飛ばさないで最後までしっかり鑑賞して下さい。