「死を選択する権利」ブラックバード 家族が家族であるうちに よしえさんの映画レビュー(感想・評価)
死を選択する権利
劇中では語られないものの、ALSと思われる病が進行し、動けなくなる前に自死を選んだ母親。その夫と、週末にその家に集まり死を見届ける娘二人、長女の夫と息子、次女とそのパートナーの女性、母親の長年の親友。映画はこの8人の登場人物だけで描かれる。
あらかじめ聞かされて同意していたとはいえ、死の前夜に行われたクリスマスパーティから各人の葛藤が少しずつ見え始めていく。だが、死を選んだ当人の決意は揺らぐことがない。そこに、決して仲が良かったとは見えない姉妹の葛藤と対立や、ある疑惑が絡み、当日を迎えることになる。
わたしだったらどうだろうか。
わたしがもし難病でいずれ苦しみの果てに死を迎えると分かったのなら、そして今ならさほど苦しまずに死ぬことができるのなら、たしかに今、自らの意思で死を選ぶかもしれない。今なら大切な人たちに囲まれて、幸福な思い出だけを胸に逝くことができる。
けれども、わたしが自死を選んだ身内の死を看取る側だったら、はたしてなんの蟠りもなく送ることができるだろうか。最後には納得するしかないにしても、逡巡せずにいられるとは到底考えられないように思う。
自らの死を選ぶ権利が認められている国は少ない。劇中でも、その扱いは州によって異なり舞台となる州では認められていないことが語られる。
ただし自死を選ぶというのは幸福の追求でもあり、自己決定の権利とともに人権の一部と考えることもできる。仮に身内が病苦の果てに、自分で死ぬことができず殺してほしいと望んだ場合、手を下すことができるだろうか、という問いにも繋がる。
実際にそのシチュエーションが訪れた時にどう考えるか。立場が逆ならどう思うか。軽々しく答えの出せない問いを突きつけられるような作品だった。
なお、タイトルの「ブラックバード」については、劇中特に言及がない。夢占いでは(自分もしくは身内に)大きな不幸が訪れる暗示と解釈されるようだが、それだろうか。