「ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団」クレッシェンド 音楽の架け橋 arlecchinoさんの映画レビュー(感想・評価)
ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団
実際にバレンボイムの主導でユダヤ人とパレスチナ人の演奏家で編成されたウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団の話を下敷きに作られている。バレンボイムの音楽ははっきり言って好みではないが、これは優れた業績だと思う。そういえばイスラエルで初めてワーグナーを演奏したのも彼だ。なかなかやるね。「ほんとうのジャクリーヌ・デュ=プレ」という伝記映画ではバレンボイムは妻ジャクリーヌが病気になったらさっさと見捨てるクズ夫(おっと)として描かれてましたが笑。
さて、映画はどうか。誇張はされていると思うが、いがみ合う同士として最初は実際あんな感じだったんだろうな、ってところは面白かった。でも、融和のプロセスに違和感があるんだよねえ。あんな風にいくものだろうか。私としてはもうちょっと「音楽を通して心が一つになる」が前に出ていた方が良かったと思う。指揮者のカリスマ性が描けていないせいかも。その意味で製作者の音楽愛が足りないのだと思う。
パレスチナ青年の父親が指揮者を「ポルシェ」と呼んでいたのは皮肉が利いていて面白い。ポルシェはナチスのおとしごだからねえ。最近、「オーストリア北部リンツの市当局は15日、ドイツの高級車メーカー、ポルシェ創業者のフェルディナント・ポルシェ博士の名を冠した通りを改名する計画を明らかにした。ポルシェ博士の過去のナチスとの関係が改めて問題視されたため。市議会が年内に改名を承認する予定だが、新名称は未定という。」なんてニュースがあった。もちろん父親は「ドイツ製で高級で能力が高い」という意味でポルシェと言っているということなのだが、指揮者の父親がナチスであったという設定を踏まえて制作者がイースターエッグとして仕込んだのではないかな。
終盤の「事件」は悲劇だったな。家族も巻き込んだ民族の対立が生んだ悲劇を描きたかったのか。劇的ではあったが人物の行動もなんか腑に落ちないし、ストーリーとして不要だと思う。