「やはり最後で涙を堪えることはできなかった」クレッシェンド 音楽の架け橋 kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)
やはり最後で涙を堪えることはできなかった
ナチスがらみの映画ってとても多いが、イスラエル・パレスチナ問題を扱ったものはあまり見かけない。いろんな理由が考えられるが、何よりも今なお続いているからだろう。長い年月の間にこじれにこじれて、どちらが悪いと言えない複雑な問題になってしまっている。
本作で繰り広げられるのはそんな複雑で根深い問題をベースにした感情的な対立だ。テロリスト!人殺し!となじり合う彼らにはそれぞれ理由があり、それぞれに正当性がある。オーケストラを編成し、コンサートを開催するまでの障壁の高さを感じさせるシーンだ。
でも、彼らは音楽家だし、目の前にいるイスラエル人・パレスチナ人がテロを行ったり、同胞を殺したわけではない。マエストロのスポルクが行うグループワークにどれだけの意味があるのかはわからないが、その過程で何と向き合って、どんなことを考えたらいいのか観ている私たちに提示してもらった感じだ。そして、メンバーたちが徐々に一つになっていく過程がやはり美しい。でも、単純に音楽のことだけ考えればいいんだ!ってことではないし、全員の精神的なわだかまりがなくなるわけでもない(どうしても相手方を許せない人も存在する)描写があって、現実を表している感じがよかった。ただの美談にしようとしたわけではないんだな。
オマルの行動には疑問符も残るが、それを指摘して低評価にするのは無粋だ。とにかく音楽家としての真摯な姿勢が大きな感動を生み出したことだけは確か。安易にすべての障壁を乗り越えました!ってラストじゃないところがまた素晴らしい。
イスラエル・パレスチナ問題の根っこにはナチスのユダヤ虐待がある。ということはこれも広い意味でのナチスがらみの映画ってことになるな。ナチスが残した負の遺産はとてつもない。いろんな意味で考えさせられる。