「まんまと騙されてしまった」先生、私の隣に座っていただけませんか? R41さんの映画レビュー(感想・評価)
まんまと騙されてしまった
漫画家どうしの夫婦、夫の不倫に気づいた妻の次回作は実話を描いた作品だった。
妻のネームを盗み見した夫は、妻の通う教習所の指導員と関係を持つという内容に狼狽える。
この作品の見どころは、妻側の、つまりサワコの体験がトシオの視点を通してフィクションかノンフィクションかという問題に迫るところだろう。
小心者の夫トシオは、編集者との不倫を妻に内緒にしているが、妻は早々にそれを見抜いていた。
たまたまサワコの母の怪我によって、二人とも実家にしばらく滞在することでこの問題への焦点がクローズアップされることになる。
面白いのがサワコの描くネーム。リアルなのか妄想なのか。そして彼女の狙いがどこにあるのかということだ。
そのいくつかのパターンが映像として提示されるが、どれが本当なのかわからない。
しかしトシオはやがて自身の不倫問題に真摯に向き合おうとする。
サワコが連れてきた指導員のシンタニ。皆その意図がわからない。シンタニの「ただ今日夕食に誘われただけ」という言葉。
サワコの人物像は母が語る「昔から思ったことを言えなかった娘」
娘の変化 妻の変化 それは間違いなく存在したが、視聴者としては結局サワコがこの問題をどのように決着させるのかに視点が向けられる。
多くは赦しを予想、あるいは期待したはずだ。
サワコとトシオは師弟関係だった。それがいつしか逆転していたことが明かされる。
「もう書くつもりはない」トシオ。
「何を見ても心が動かない」トシオも、妻にとっては「先生」
トシオのペンを入れる能力は、サワコにとっては必要な技術だ。
そのトシオを再び駆り立てるようにネームを描く。トシオも乗り始める。
朝になり隣にいたサワコがいない。家の中にもいない。
サワコの描いた最後のネームを手に取るトシオ。
そこにあったのは家を出ていく二人。つまりサワコは実話を描いていたのだ。
指導員との関係はすべてノンフィクションだったことに驚愕するトシオ。
母だけが娘の変化に気づいていた。娘の心が乙女にならなければスカートなんか穿き続けられないのだ。穿き続けていたことに、リアルがあったのだ。
そして最後に来るどんでん返しがオチになる型。
大抵の人は冒頭サワコの「駅まで送ってあげれば」の言葉に不倫を想像したに違いない。
サワコの変化「スカート」 事実と妄想
しかし考えればこのタイトルは教習所の指導員との関係でも使える。師弟関係と掛けているのかもしれない。
実際はどうなの? という感じて映画を見る面白さがあった。
しかしサワコの心の奥底はなかなか見抜けなかった。