「大いに笑える前半と巧妙に仕組まれた脚本」先生、私の隣に座っていただけませんか? つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
大いに笑える前半と巧妙に仕組まれた脚本
前半は柄本佑演じる夫の俊夫の狼狽えっぷりにとにかく笑った。へたなコメディなんかよりよっぽど笑った。
事実だからこそ妻の佐和子に問えないギリギリ感が絶妙なのである。自分は浮気をしているのに妻の「疑惑」に対して慌てる覚悟のなさも面白い。
佐和子が書く漫画と現実がクロスしていく中盤以後の展開もいい。映画ならではの表現といえる。
漫画の内容が実際の人物に置き換わっていく始まりから、徐々にその境界は曖昧になっていく。後半はもう事実なのか漫画なのか判別が出来ないほどに。
漫画の内容が事実だとは誰も一言も言っていない。最後までフィクションかどうか書いている佐和子以外には分からない。
この事実はエンディングを面白くする。つまり、私達が見た、佐和子が教習所の先生と出ていってしまうラストは漫画の内容でしかないかもしれないのだ。
どこまでが現実で、どこからがフィクションかもしれない漫画なのか分からない。最後までずっと現実なのかもしれないし、最初からずっと漫画なのかもしれない。そんな現実と虚構が入り混じった脚本は巧妙。
もう何年も漫画を書いていない俊夫に対して、尊敬しているからこそ作画を任せ復帰させたいという俊夫に対する愛情かもしれないし、出ていったあとの自分を強制的に見せることで苦しみを与えようとする復讐なのかもしれない。
どちらともとれる物語は、タイトルになっている「先生」が本当は誰を指すのかで変わってくるが、これまた曖昧なままだ。
結局、答えのないラストに向けて観ている私達も翻弄されたわけだが、そこが面白い。
俊夫を演じた柄本佑の慌てぶりは最高。
佐和子を演じた黒木華の、明らかに現実であるパートでの感情が読めない演技もいい。
何か不満を抱えていることは確かだが、その原因が浮気によるものなのか漫画を書かないことなのか定かではない不穏さが絶妙。
まあ普通に考えたら浮気が理由だろうが、たとえ僅かだとしても絶対にそうだと言い切れないところがいい。