劇場公開日 2021年11月19日

  • 予告編を見る

「独りよがりの学芸会みたいな作品」ミュジコフィリア 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0独りよがりの学芸会みたいな作品

2021年11月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 気持ち悪いとしか言いようがない作品だ。登場人物はみな風変わりで自分勝手で、誰にも感情移入できない。引き込まれるところが少しもないまま、いつ面白くなるのかなと待っていたのに、ちっとも面白くならないまま終わってしまった。
 主人公が天才かどうかは観客が決めるものだ。登場人物が主人公を天才だと感心しても、何も伝わってこない。映画は観客を感動させるものなのに、登場人物が観客を置き去りにして、自分たちだけで勝手に感動している。スクリーンのこちら側は白けるばかりだ。

 井之脇海や松本穂香、阿部進之介など、割と好きな俳優陣が出演していて、それぞれ頑張って演技をしているのだが、どうにも響いてこない。音楽の映画で何も響かないのは洒落にもならない。どの登場人物も人物造形が浅いから、行動に必然性がなく、唐突なシーンが連続するように感じられてしまう。特に松本穂香が演じた浪花凪は、台詞といい行動といい不自然極まりなく、観ていてとても不愉快だった。
 それにベタベタと人に触りすぎる。チェリストが弦で人を叩くのもあり得ない。関西人がみんな漫才師みたいに人を叩くと誤解を招きかねない。関西弁が厚かましさや図々しさや無神経の象徴みたいに使われていて、好きな京都弁が嫌いになりかけた。

 主人公の漆原朔だけに焦点を絞って、主役と脇役の映画にすればよかったと思う。変に群像劇にしてしまったことで、底の浅いつまらない映画に成り果ててしまった。
 映画サイトの紹介文には「子どもの頃からモノの形や色が音として頭の中で鳴っていた朔」と書かれてあるが、そんなシーンはついぞ出てこなかった。子供が見たり聞いたりしているだけのシーンでは「音として頭の中で鳴っていた」ことを表現できない。観客に伝わらなければ表現しなかったのと同じことだ。主役の子供時代をもっとしっかりとしたシーンにすれば、主人公に感情移入できたと思う。印象だけのシーンでは観客には理解できない。製作者の思い込みばかりが突っ走る、独りよがりの学芸会みたいな作品である。

耶馬英彦