「『奇妙な果実』に込められたメッセージを聴け」ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
『奇妙な果実』に込められたメッセージを聴け
『リスペクト』のアレサ・フランクリン同様、名前だけは聞いた事あるものの、詳しくは知らない。おそらく曲を聞くのも初めて。
公民権運動黎明期の1940年代のアメリカで、歌でアメリカ政府と闘ったレジェンド・シンガー。
ビリー・ホリデイ。
その楽曲『奇妙な果実』は人種問題を告発したような歌で、劇中でも披露されるが、かなり衝撃的な歌詞。“奇妙な果実”とは木から首を括られ吊るされた黒人を指し、その悲劇や残酷さを訴える。
それ故公民権運動を煽るとして、政府からマーク。ビリーにはクスリの疑いがあり、それ共々逮捕を目論む。彼女の下に囮捜査官を派遣までして…。
ズバリ言ってしまおう。治安や保守など建前。国家ぐるみの人種差別。
歌う自由を奪われ、遂に逮捕されながらも、ビリーは歌う事を諦めない。
それは自由と、自身の信念と、人種平等への力強い声。
伝記映画は大抵、幼少時代から始まり、ブレイク、挫折などが典型だが、本作はシンガーとして絶頂期の私生活の苦悩、政府との対立に重点が置かれ、昨今のシンガー伝記映画とは切り口を変えている。
彼女の歩みも勿論だが、ビリー・ホリデイという人物個人の内面、不屈の精神に時間を割き描きたかったのだろう。
本作で映画初主演のシンガー、アンドラ・デイの渾身の熱演は圧巻。
歌唱シーンは言わずもがな、文句の付けようがない。
アンドラの熱演やビリー・ホリデイ本人の苦闘は称えられるもの。
が、偉人とその偉業が必ずしも名作にはならない。
その典型的な作品でもある。
勿論悪い作品ではないが、興味や知らない者にとっては退屈にも感じる。メリハリや盛り上がりにも欠け、よく言って平淡。
実は歌唱シーンもそんなに多くはない。『ボヘミアン・ラプソディ』や『エルヴィス』のようなエンタメ性も乏しい。
玄人好みの作品。
タイトルは“合衆国対ビリー・ホリデイ”の見応えありそうな題材を連想させるが、それと並行してプライベートにもフォーカス。
クスリや酒に溺れ、男関係、仲間との不和など重たい内容を延々見せられ、気が滅入ってくる。
これじゃあせっかくの“合衆国対ビリー・ホリデイ”というより、典型的なシンガー伝記映画。
結局ありきたりの枠から抜け出せなかった。
『リスペクト』と同じ締め括りになるが、ビリー・ホリデイがどういう人物で、何をしたか知れただけでも。
衝撃的なのはOPとEDの文章。本作が全米公開時はまだ未成立。つい最近、今年3月に成立されたという。
反リンチ法。
アメリカの人種差別の闇は恐ろしく深い。