劇場公開日 2023年1月13日

「クズ男は、恩讐の果てに」そして僕は途方に暮れる ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0クズ男は、恩讐の果てに

2023年1月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

悲しい

難しい

自分達の世代であれば
当該タイトルは
『銀色夏生』の歌詞、
『大沢誉志幸』の曲と唄、そして
「カップヌードル」のCMに使われた楽曲。

しかし、
詩と映画の内容がピタリとシンクロし、
まさに本作のために創られた曲と勘違いしそうなほどの嵌り具合。

もっとも、出て行くのは
「君」ではなく「僕」であり、
とても共感できない性格のクズ男ではあるのだが。

始まりは11月19日(木)とされているから
2020年のことか。東京オリンピック関連のフラッグも画面に写り込んでいる。

『裕一(藤ヶ谷太輔)』は『里美(前田敦子)』と同棲して五年、
しかし未だに定職には着かず(つけず?)に居候状態。

暇な時間を持て余しているにもかかわらず、
彼女にはまるっきり依存で、傍目からはヒモと変わらね、いや
家事すらまともにせぬことを考慮すれば、それよりもタチが悪いかも。

ある日、浮気がバレてしまい、問い詰められ、しかし、
発作的に身の回りの荷物をリュックに詰め込み遁走、
親友の家に転がり込む。

しかし、そこでも依存状態は変わらず。
叱責されれば逃げ出すと、同じことを繰り返す。

どうやら彼は三十年近い月日を
目の前の問題を回避することでやり過ごして来たよう。

稼ぎにしても、故郷に独り住む母親にたかる状態で、
見ていて義憤を感じてしまうほど。

大学時のサークルの先輩や後輩、実の姉とも
気まずくなり、進退窮まった時に頼るのは
やはり肉親。

が、苫小牧に住む
リウマチでカラダが不自由な母の『智子(原田美枝子)』ともひと悶着を起こし、
あてどなくなく彷徨う主人公を最終的に拾ったのは、
離婚して別居している父親の『浩二(豊川悦司)』。

ここで仰け反ってしまうのは、上には上があるとの世間の理で、
『浩二』は『裕一』に輪を掛けてのクズ男。
二人の同居生活は、見ていても暗澹とするほど非生産的。

このままでは、物語が何も進行しないよ、と
不安になった頃に事件が起きる。

舞台の映画化と聞いており、
かなり巧く適応できていると感心も、
『三浦大輔』作品なら〔愛の渦(2014年)〕や〔裏切りの街(2016年)〕と同様。

とりわけ後者とは登場人物の名前や
主人公のキャラクター付けも似ており
関連性をうかがわせる。

に、しても、同監督もそうだし、
直近では「クズ男」がカギとなる映画が多いことにも驚く。
ここ二ヶ月で〔夜、鳥たちが啼く〕〔恋のいばら〕と(何れも『城定秀夫』だが)
ほぼ「祭り」状態なのは、何かしら時代が求めているのか?(笑)

理解とか、和解とかではなく、
感情の発露にしっぺ返しを喰らう主人公は
眼前の問題を迂回して来た因果応報とも言えはする。

しかし、多かれ少なかれ、我々にもそうした側面はあり、
カリカチュアライズされた彼の姿を
怒りや笑いや憐れみを以って見ることは、
結局は自分を棚に上げているだけの様にも思える。

ジュン一