「これでも推敲しました」鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 乱丁さんの映画レビュー(感想・評価)
これでも推敲しました
長文です。
鬼太郎はたぶん第4期を何度か見た程度で、数年前まで目玉おやじは最初から目玉なんだと思っていました。
そもそも、当初は映画の存在すら知らず、話題だし関俊彦さん出るし見ようくらいのノリでした。
今5回目の入村を控えています。
戦後の成長期が舞台ですが、「古き良き時代」的な要素は一切なく、煤煙や煙草の煙でひたすら濁った都会の姿が描かれます。
一方、哭倉村は空気の澄んだ自然豊かな村で(まぁ惨劇の舞台になりますが)、二者の対比が印象的でした。
なお、哭倉村に行く列車内で咳き込んでいた子供は後半で再登場しますが、気付いた時に戦慄しました。
村の異常性、排他性も半端ないです。
水木が入村し、沙代に出会うまではずっと第三者視点(生身の人間ではあり得ない視点からも…)での水木の姿が映っていたり、水木の姿を発見した途端に稲に身を隠す村人など、この村には後ろめたい事がありますよーと言わんばかりです。
実際、龍賀一族どころか村全体がヤバいと後半で判明します。一見ド田舎なのに、あれだけの医療?設備があるアンバランスさは、龍賀一族さえ栄えれば、他の村人の暮らしはどうでもいいという思想の表れなのかなと感じました。
そんなこんなで黒幕は時貞と判明しますが、この世での権力に執着し、孫すら犠牲にする様は本当に見苦しいです。
散々人を食い物にしてきた時貞ですが、最終的には狂骨に咀嚼され、変な玉になって出てきます。まるで排泄物です。お似合いです。
他にも印象的だったシーンをいくつか。
まず何より、おやじが強すぎる(笑)歯で刀身を受け止めて噛み折ったり、太い手摺を素手で折って振り回したり、人外だと再認識させられる暴れぶりでした。
父さん、パワータイプだったんですね…今の見た目からは想像も付きません。敵に回したくないです。
父親の思想に心酔する乙米が、娘である沙代の秘密を嬉々としてみんなの前で暴露するシーン。この人は心から父親に賛同しているのか、それとも自分を殺し、狂うしか選択肢がなかったのか…
奥さんがおやじと再会するまで鬼太郎を身籠り守り続けた所は、神宮皇后や葛の葉を彷彿とさせました。
幽霊族の力とはいえ、これほどまでの母の愛に対し「気色の悪い化け物め」と抜かす時貞は本当に殴りたいです。
水木が時貞の野望を「つまんねぇな」と一蹴し、髑髏を斧で叩き割ってからの「ツケは払わなきゃなぁ!」は痛快でした。
村を脱出する時には奥さんにちゃんちゃんこを着せており、あれだけ自分がのし上がる事だけ考えていた水木が…と感慨深かったです。
そういえば、木内秀信さん演じるキャラが変な村で銃をぶっ放すのは2回目ですかね?
狂骨と化した時弥におやじが言った「皆心貧しく苦しんでいる」という言葉。正直、現在の日本の様子は時弥には確かめようもないので、「日本は進歩して豊かになった」と言う事も可能だろうけど、子供だからといってお為ごかしを言わない、おやじなりの誠意だと思いました。
エンドロールは墓場鬼太郎の1話に仕立てられていますが、記憶を失くした水木に「わしじゃ!ゲゲ郎じゃ!」と叫んでいるのが聞こえるようで、切なくなりました。
見れば見るほど気付きがあります。
本作は鬼太郎誕生の前日譚がテーマのため特に描かれていませんが、哭倉村および龍賀一族の興りについても知りたくなりました。また、贅沢を言えばノーカット版があれば見たいです。