「【※長文愚痴】圧巻の映像美と声優の演技、そしてチープなテーマと悪役にお説教」鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 seitaさんの映画レビュー(感想・評価)
【※長文愚痴】圧巻の映像美と声優の演技、そしてチープなテーマと悪役にお説教
大前提として、私はもともと『妖怪がひたすら被害者という立場を通して現代人の物質主義やエゴに物申す』というスタンスの鬼太郎アニメがそこまで好きではないタイプの子どもでした。今でも鬼太郎ほとんど興味ない人間です。
が、あまりにも評判がいいのと、PV映像がめちゃくちゃカッコいいので面白そうと思って見に行きました。
PVどおり映像はホントよかったです。特に莫大な手間とお金かけたであろうアクションシーンは圧巻の一言だし、声優さんも素晴らしい。一番好きだったのは沙代を演じた声優さん、可愛らしい声だけど今時の萌え系アニメのアイドル声優とは厚みが違うなあと感じました。
ただ、ストーリーのほうは…、PG12と言うことで、もう少し大人の鑑賞にも耐えうる深みや骨太さがあるのかと思いましたが、結局悪くて醜いのは全部人間なんです、人外の存在はあくまで被害者なんです!っていう、もう鬼太郎じゃなくても百万遍は見た食傷気味のパターンで、アニメとか漫画見なくなって久しかったけどマジで今でもコレやっちゃうのか、とちょっと鼻白むくらいでした。
この手の批判や説教はテレビアニメの鬼太郎の中でも子どもの頃何度も見せられたものですが、じゃあふわふわな感情論以外で、具体的にどうすんの?っていう答えは一度も見た覚えがないんですよね…出てたら教えて下さい。ただダメだエゴだと批判と精神論的な解決案繰り返すだけなら子どもでも出来ると思うので。
そして色んな創作物で腐るほど見たやつ、巨悪の象徴にして世界でも類を見ない圧倒的謎技術を誇る旧日本軍。そいつらがヤバいお薬作って、それで生産したジャンキーを駒に、日清日露戦争を勝っちゃってます。チョロい戦争ですね。
横溝でも確かそんな話ありましたが、たかがジャンキー使った程度で強国に勝てちゃいました、その後の世界大戦もいいとこまで行けちゃいましたとか、そんなガバガバでボロボロなツッコミどころしかないネタ昭和ならともかく、この令和でも真面目に大々的にやってるのがまず驚きです。猫娘とかめちゃくちゃ今風に寄せてるのに、そういう穴だらけのとこは一切アップデートしないんだ…
しかも敗戦直後の急激な復興もそのおクスリの影響とかいう、当時の過酷な状況下で働き抜いたであろう人々への冒涜とも取れる描写は、真面目に閉口しました。
とにかくそのへんの全ては戦争(というか日本政府と旧日本軍)が悪なんです!と言いたいがための設定なので、薄いし、説得力なんてないと感じます。
戦争批判の部分なんて、何か軍隊時代の水木の上官が『玉砕って言っちゃったから俺以外は玉砕しなきゃだし…』みたいな信じられないアホだったり、壮絶な後輩イビリする先輩がいて、それらをして水木は「俺は戦争の理不尽さ悲惨さを知ったんだ!」みたいな感じにもなってますが。確かに上司ガチャハズレは理不尽だしご愁傷様としか。でもガチャに外れたのも上司がアホなのも戦争とは別の理不尽さだと思う…いじめ問題も別に軍隊や戦時下に限った話でも全然ないし。その辺の問題を戦争と完全に混同しているのがかなりチグハグに思えます。やり尽くされて来た語り口ではありますが。
あと「戦争は全部それを煽って食い物にしてる黒幕の仕業で、一企業の勤め人だけど俺そういうの全部見えてるし分かってます!」みたいにもなってる。
それを、何か説得力のある具体的なエピソードで魅せてくれるわけでもなく、ほぼ全部セリフでズラズラ言ってるだけなので余計に寒いし薄っぺらいです。
そして戦争の悲惨さを訴える割に、日本側の醜悪さだけはギャグレベルにまで誇張して執拗に描くくせに、爆薬ぶっ放して人間粉々にしてくる敵の事には一切触れないし見えてこないの何なんですかね…それこそ幽霊や妖怪じみてるんですが
アクションはとにかく素晴らしいですが、それを向ける悪の存在が、ガバガバ設定の旧日本軍や巨大企業に象徴される、単純かつ申し訳ないですが幼稚で古臭い二元論や戦争観を下敷きにしたものなのでシラけました。
戦争云々置いといても、悪役は全部自分の悪事ベラベラ喋って調子乗る系だし、これで人間のエゴや醜さが描かれてますって言うなら、それ水戸黄門見て人間の複雑さが描かれてる!って言うようなもんでは…
小学生くらいまでならエンターテイメントとしてアリでも、PG12…一応大人も見るものでこの悪役、この悪の描かれ方はない…。
最後はお約束の、「豊かになっても相変わらず人の心は貧しい」みたいなお説教で締めくくってますが。そういうお説教を贅を尽くした劇場用アニメーションで流せて、それに対して10億単位の金を現代の観客が落とせるのも、あの戦争を戦い抜き、そして戦後身を粉にして働き復興してきた名も無い人々がいればこそで。そこに何の感謝もなく、ただ上から目線で愚かだった、身勝手だったとしか言えない、感じられないのなら、確かに心は貧しいかもねと思いました。
そういう意味では、メッセージ性が強く心に残る映画ではあります。