「ノイズの少ない良質な、胸のすききらない作品」鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 さささんの映画レビュー(感想・評価)
ノイズの少ない良質な、胸のすききらない作品
「胸のすく思い」という言葉は使ってきたが、「胸のすききらない思い」は人生で初めて使った気がする。
原作はおろか過去のアニメ作品も子供の頃見たような気がする程度。登場キャラクターをふんわり知っているのだから人生のどこかで触れたことがあるだろう、くらいの知識の乏しさ。
鑑賞のきっかけは、因習村だという感想を見かけたため。
きちんとした因習村は不気味な題材としてとても好きだが、雑な因習村はコントだと思っている。
作品冒頭。新聞社のデスクが並ぶシーンで、部屋が白んでいた。
この描写に、現代にそれっぽいものを描く昭和レトロ物語ではなく、昭和の物語なんだ、とハッとした。
昭和という時代は、男女共に煙草をどこでも吸うのが当たり前で、人が集まる部屋は煙で白む。
私たちが生きていてほぼ見ることの無いこのような光景は、しかし空想のファンタジーでは無い。描写に正解はある。
こういった丁寧な描写は、作品に没入するにあたって作品の外側を思い出すようなノイズが、この作品に無かったことの証のように感じる。
物語舞台は、因習村だった。
因習村作品に求められているもの、外的要素はもちろん、作品から受ける印象、陰鬱であったり不気味さや胸糞の悪さ等、そういった要素がきっちり盛り込まれていた。
こういったものは、ホラーのような耐性が有る無しで分類されると思う。
そういった意味では、子供向けでは無いと思う。そもそもPGもあるが、「人間の醜さ」みたいなものを含んだ作品を子供に積極的に見せたい人は少ないだろう。
そういった要素に抵抗の無い人であれば、そういった作品に求めているものがちゃんと入っている作品だった。
ホラーと同じでそういった物に特化した人はもっとおどろおどろしいものを求めてしまうのかもしれないが、この作品はちゃんとそれはただの舞台装置であり作品が描きたいメインテーマではない、というところもしっかりしていた。
物語としては意図的に特定の登場人物1人に感情移入して見て欲しい、という作りはしていなかったように思う。
たまたま誰かと感性が近くてそのキャラクターに移入してしまう、というパターンはあるかもしれないが、それほど移入はしないんじゃないか。と思ったが、エンディングで涙している人の気配を劇場内に感じて驚いた。
あるいは、登場人物に前持った思い入れがあり、自分の中で積極的に移入する対象があるのかもしれない。事前に登場人物を自分の中にインストールしていたら、物語はひどく重く心にくるだろう。
まず終わり方としては、特定の登場人物に感情移入を積極的に行っていなくても、まるで晴れない気持ちにさせられる。BADエンドでは決してないが、ハッピーエンドと評することは絶対に無いだろう。
そういった終わり方もまた1つと楽しめる人は、オススメ出来る作品だと思った。