「リーアム無双にクリント味を足した“運び屋スナイパー”」マークスマン 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
リーアム無双にクリント味を足した“運び屋スナイパー”
舞台俳優出身、「シンドラーのリスト」などで演技派として名声を得たリーアム・ニーソンは、大ヒット3部作「96時間」(2008、12、14年)以降、元軍人などの設定で並外れた戦闘能力を備えた屈強な中年オヤジ(還暦を超えてからは初老男も)を演じる作品に出続けているが、本作もそうした流れに沿う一本。
ただし、監督のロバート・ローレンツは2002年の「ブラッド・ワーク」以降すべてのクリント・イーストウッド作品で製作に携わってきたそうで、初メガホンもイーストウッド主演の「人生の特等席」。イーストウッドが追求してきた孤高のヒーロー像や男の美学の薫陶を受けてきたと言えそうで、たとえば本作の主人公ジムとメキシコ人少年ミゲルの人種を超えた疑似親子の関係は、「グラン・トリノ」や「運び屋」でも描かれた関係性を反復している。ついでに言えば、イーストウッドは実在したネイビーシールズ所属の狙撃兵を主人公にした「アメリカン・スナイパー」を監督しており、同作にもローレンツは製作で参加していた。
そんなわけで、ローレンツが監督第2作となるこの「マークスマン」で脚本にも参加し、ニーソンがこの10年来たびたび演じた“静かに暮らしているが、いざとなったら滅法強い元軍人”というキャラクターに、イーストウッドの主演作や監督作で描かれてきた要素を加味してストーリーを構成したのはある意味自然なことだったのだろう。
ニーソンは現在69歳、さすがに「96時間」3部作の頃のような激しい格闘アクションは減ったものの、元狙撃兵という設定が奏功し、麻薬カルテルの悪者連中に狙われた少年を守りながら親戚の家まで送り届ける旅において、敵に狙いを定める静かな緊張感に満ちたシーンで観客を魅了してくれる。