「この『物語』は 彼女が歩き出す物語だ。 〈肉体の檻〉という極限の制限下での戦いを見届けよっ!💉♿️」RUN ラン たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
この『物語』は 彼女が歩き出す物語だ。 〈肉体の檻〉という極限の制限下での戦いを見届けよっ!💉♿️
制限された環境で展開されるサイコスリラー『サーチ』シリーズの第2作。
生まれながらにして糖尿病や喘息など、複数の持病を患っており、下半身麻痺により車椅子で生活する少女クロエ。母ダイアンはそんな彼女を献身的にサポートしていた。
しかしある日、クロエは母親から手渡された薬に違和感を覚える。その薬が何なのか調べるうち、ある恐ろしい事実が浮上する…。
監督/脚本はアニーシュ・チャガンティ。
公開当時、映画評論家の町山智浩さんがラジオで紹介していて興味を持った作品。……おまっっ!ラジオで全部ネタバラししちゃってるじゃねーかこの野郎っ😡😡😡
…まぁそれは置いといて。
20代で監督した初長編映画『search/サーチ』(2018)が興行面/批評面で大成功を収め、時代を代表する映画人となったチャガンティの長編2作目。どうやら『サーチ』と世界観を共有しているらしいのだが、彼の前作を未鑑賞のため何処がどう繋がっているのかはわからず。本作は単体の映画として完全に成立しているので、そこはあまり気にしなくても良いのかも。まぁ機会があったら『サーチ』の方も鑑賞してみます。
内容としては、歪んだ愛情が狂気として顕現する『ミザリー』(1990)的なサイコパスもの。肉親が子供に襲い掛かるという意味では『シャイニング』(1980)にも近しいが、要するにスティーヴン・キングの流れを汲む正統派にして王道のスリラー映画に仕上がっている。
見どころはやはり主人公クロエの頑張り。車椅子かつ呼吸器系と心臓に持病を持っているという、肉体的制限がガンガンに掛けられている彼女が、如何にして文字通りの“毒親“から逃げる(Run)のか、この一点突破で本作は押し進む。清々しいまでに単純な映画なのだが、「病人」という持たざるものの象徴の様な主人公が己の頭脳と技術と体力を最大限まで活用して戦いに挑む、その姿勢は激アツ。絶望的な状況であるにも拘らず泣き言も言わずに即断即決で行動してゆく彼女は、どんな肉体派ヒーローよりもワイルドである。
クロエを演じるキーラ・アレンは本作が映画初出演の新人女優だが、そうとは感じさせない迫真の演技は見事👏実際に車椅子ユーザーである彼女だからこそ、クロエというキャラクターにリアリティが宿ったのであろう。
アレンさんは本作以降目立った活躍はない様なのだが、もっとバンバン映画に出演させるべき逸材だと思う。こういう役者に活躍の場を与えてこそのDEIだろハリウッドさんよぉ〜〜。
本作が面白いのは、普通のスリラー映画とはキラー側の勝利条件が違うという点。ダイアンの勝利条件はクロエを生かして捕える事であり、彼女の死はダイアンにとって最大の敗北条件となる。チャガンティはキラーがサバイバーを殺せば勝ちという、従来の「Dead by Daylight」(2016-)方式を逆転させる事で、絶対に逆転不可能に見える状況からの大どんでん返しを可能にしてみせた。命を捨てて命を拾う。クロエの機転とクソ度胸はほとんど「ジョジョ」の領域。チャガンティ!きさま!(ジョジョを)見ているなッ!
冷静に考えれば、お母ちゃんの監禁はかなりゆるい。『ルーム』(2015)くらいガチガチの環境に閉じ込めてしまえばそれでゲームセットだった訳だが、そこは親心が働いたと解釈する事にしましょ。
また、本物のクロエの死亡診断書とかクロエがまだ歩けた頃の写真をなぜあんな風に丁寧に保管していたのかも謎っちゃ謎。いや、それらは思い出の品として手元に残しておきたかったという気持ちもわからんでもないのだが、誘拐事件の新聞切り抜きまでセットでとっておく必要はねーだろっ!!まぁそのおかげで話がテンポ良く展開したんだけどね。
90分という短いランタイムできっちりと恐怖と勇気を描き切った、現代サイコスリラーのメルクマール的傑作!指の一本、あるいは足の先が少しでも動かせれば、勝負はまだわからないのだ!!
本作公開時、まだ監督は30歳かそこら。その若さでこんなん作られたら、同時代のホラー監督たちはたまったもんじゃないぞ💦スピルバーグが『JAWS/ジョーズ』(1975)を作ったのが27歳の時。チャガンティも順調にキャリアを歩めば、スピルバーグクラスの大監督になれるかも…?

