「断罪される母性の狂気」RUN ラン Garuさんの映画レビュー(感想・評価)
断罪される母性の狂気
現実の世界でも、母性の狂気にまつわる犯罪はしばしば起こるが、何かしらの同情や理解が伴うものだ。 この作品では、 常軌を逸した方法で実子でもない娘を支配し、彼女の青春を奪ったこの母親?への同情は一切ない。 最終的には、身勝手極まりない悪行として娘から断罪され、始末?される。
最初は、悪意をもって娘を陥れようとしているようには描かれていない。 人格の破綻したサイコなのだから悪意もクソもないが、その表情と言動からは、娘が自分から離れることに怯えている母親の姿しか見えない。 車椅子の娘とそれを支える母親の関係からは、 深い絆さえ伺える。
母親の歪んだ支配欲・独占欲を、 母性と母娘の濃密な関係に転換して見せる演出が、非常に巧だ。 この描き方が、後半の盛り上がりにドライブをかけることになる。
個人的には、 母親の怪しさを確信できて以降も、少しは同情の余地があると思いつつ、 この大人しそうな娘がどう行動するのかを観ていたが、 展開が進むにつれて甘い考えは吹き飛んだ。
娘の疑問が確信に近づいてくると、母親の隠していた狂気が凄まじい形で露出し始めるのである。 そして、愛が裏切られたことを悟った娘の怒りと悲しみは、異常者の狂気を遥かに凌駕する。
結末は、想像以上に厳しいものだった。
仮に、これが自分の身に起きたならと想像してしまう。 血のつながっていない他人であり、自分を支配し殺そうとした鬼・悪魔である。 しかし、自分を育ててくれた母親であり、幼いころからの思い出を共有している唯一の人間でもある。
果たして、殺れるものか。 いやぁ…。
やっぱり殺るしかないかねぇ…。
考えさせられるサスペンススリラーであった。