「登場人物全員にドラマがある。本当に面白い青春映画。」彼女が好きなものは といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
登場人物全員にドラマがある。本当に面白い青春映画。
重要なことですが
「スタッフロールの後に重要なシーンがあるかもしれないから劇場の照明が灯るまでは絶対席立ってはいけない」
皆さん、肝に銘じておきましょう。
正直、ポスターを見た時点で「キラキラ恋愛映画」の雰囲気を感じていて鑑賞する予定は無かったんですが、実際公開されてみるとめちゃくちゃ評判が良い。普段から映画を観ている映画レビュアーからもめちゃくちゃ評判が良い。評判の高さに背中を押されて鑑賞です。
結論ですが、本当に面白かった。細かな演出やキャラクターの心情描写などが光っていて、本当によかったですね。「良い映画は数日引き摺る」というのが私の持論なんですが、鑑賞から3日経過した今でも本作の素晴らしいシーンが脳内で流れている気分です。
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ゲイであることを隠して「普通の男子高校生」として生活をしていた安藤純(神尾楓珠)は、ある日クラスメイトの美術部員の三浦紗枝(山田杏奈)が本屋でBL漫画を購入しているところを目撃し、紗枝は自身が腐女子(BLが好きな女性)であることをカミングアウトする。共通の秘密ができたことで二人は急速に距離を縮め、友人グループで遊園地に遊びに行った際に紗枝は純に告白する。純は紗枝に対して恋愛感情は無かったのだが、ある理由からその告白をOKし、二人は付き合い始めることになった。
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とある映画レビュアーさんが「タイトルで損している」と言っていましたが、私は決してそんなことないと思います。原作のタイトルが『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』で、本作はそのタイトルを短くして『彼女が好きなものは』となっています。それによってタイトルから内容が分かりづらくなっていることは確かですが、私はこのタイトル変更は大成功だと感じています。
本作では「彼女が好きなものは〇〇であって××でない」という構文が何度か登場し、毎回入る言葉が変わります。この「彼女が好きなもの」の変遷がキャラクターの心情や関係性の変化を如実に表していて、本当に素晴らしかった。
そして全キャラクターがとにかく魅力的。それが本当に凄い。
ヒロインの紗枝は言わずもがな、観た人全員が前田旺志郎演じる純の親友の亮平が好きになったと思います。後半にクラスに純がゲイバレしてしまう原因となった小野も終盤で彼なりの考えがあったことが分かりますし、純と不倫関係にあった今井翼さん演じる誠も彼なりの葛藤があることが示唆されます。
特に、妻子がありながら純と交際していた誠は、「もし純がゲイであることを隠し通して紗枝と結婚していた彼のようになっていただろう」というのが感じ取れる素晴らしいキャラクターでした。今井翼さんの演技力や雰囲気もあってか、「高校生に手を出している妻子持ちのオッサン」なのに嫌悪感をあまり感じないのが凄いですね。
語りたいシーンは数多くありますがキリがないので割愛。
しかしこれだけは語りたい。ラストシーンは感涙ものでした。
ファーレンハイトと名乗っていたSNS上での純の友人が自殺し、その彼の自宅へ赴いた後のシーン。純と紗枝が別れるシーンですね。好きだけど、好きだからこそ別れることを決めた二人は別れ話の直後とは思えない何だか清々しい雰囲気で「生身の男で初めて付き合った?」「うぬぼれるなバーカ」と軽口を叩き合います。これが今年1月に鑑賞した『花束みたいな恋をした』の、麦と絹が別れた後に付き合う前のような関係に戻ったのを想起させる素晴らしい展開です。そしてスタッフロールの後にある短いシーン。美術部の紗枝が賞を受賞した絵画のタイトルが……。これは本当に良かったですね。
今年も間もなく終わりそうな年末の時期ですが、ここにきて今年ベスト級の映画がきてしまいましたね。『花束みたいな恋をした』といい本作といい、今年は恋愛映画が豊作の年だったんじゃないでしょうか。素晴らしかった!!!オススメです!!!