劇場公開日 2021年10月29日

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「主人公に肩入れできない」モーリタニアン 黒塗りの記録 トコマトマトさんの映画レビュー(感想・評価)

2.0主人公に肩入れできない

2021年11月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

本作を劇場で見る前に、原作を書き、映画のモデルとなった男モハメドゥ・ウルド・スラヒに密着した海外ドキュメンタリーをNHKBSで見た。
確かに、彼が自身のグアンタナモでの経験について饒舌に語り、実際に米当局から人権侵害をされ、長期に渡って身体拘束されていたのは事実だ。
結局、黒判定ができず、彼は釈放されたものの、その苛烈な経験を乗り越えたことで、彼が「英雄」であるとはどうにも感じられない。
映画を見てもそう感じるが、改めてご本人も登場するドキュメンタリー見て、刑務所で尋問、拷問にも携わっていた人間の証言を見ると、やっぱりアルカイダを手引きしたんじゃないか…と思ってしまう。
このことと、映画そのものの評価、見方は切り離すべきだと思うし、映画もモハメドゥがシロともクロとも主張はしていない。しかし、映画の作りとしては100パーセント米国家権力の著しい人権侵害を告発し、主人公にはなんの非もない…と訴えているように見えてしまう。

映画を宣伝する側としては、法廷サスペンスとして売り、往年の人気女優ジョディ・フォスターが久々に活躍する作品だ、とも訴えたいのだろう。
それは分かる。しかし、モハメドゥ…その男の本当のハラがやはり分からない。
分からないことはわからないままに、権力の闇と不気味さをストレートに伝えた点で意味ある映画ともいえるが、そんなのはいくらでもあるだろう。
結局、モハメドゥの立場を尊重して映画化した、という点で甘い作品なのだ。
わざわざ、カネ払ってみるほどでもないと思う。
公開から3週を過ぎた平日というのに、そこそこ客が入っていたのもジョディ・フォスターの威光だろうか。

町谷東光