劇場公開日 2021年10月29日

  • 予告編を見る

「騙された。」モーリタニアン 黒塗りの記録 キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5騙された。

2021年10月31日
Androidアプリから投稿

かなり衝撃的な作品なのに、良くも悪くもあまり評されていないのは何故なんだろう。

役者陣も豪華だし、もちろん演技も素晴らしい。
正直、ジョディ・フォスターがいつの間にかこんな老けちゃって…と思っていたら、実在の弁護士に寄せた仕様だったと知ってひと安心。
そしてモハメドゥ役の彼がホントに良かった。理知的で洒落た彼が、どんどん追い詰められ、それでも神を信じ、崩壊することなく踏みとどまっている痛々しさが伝わってくる。

これまで911テロに関する映画は、アルカイダ側の活動を(当然批判的に)描いたものが多かったが、そういった数ある作品を遥かに凌駕するレベルで、もっと根深いアメリカ合衆国の闇を暴いている。

最初の15分を使って、拘留された若者モハメドゥの扱いについて人権派弁護士のナンシーと、911テロで友人を失った政府側のスチュワート大佐が対決する映画なんだ、不当な拘留や非人道的な扱いについて正しさを示す映画なんだ…と、かなり手際よく説明して見せて、実はそんな簡単な話ではなかった。
この手際の良さがまた、観客を騙すのに一役買っている。
で、途中で観客は思っていたのとは違う方向にエスカレートしていく流れに戸惑っている内に、後半「え?」「マジ?」というシーンが次々と繰り広げられてさらに翻弄される。
まさにナンシーの気分。

「信仰」ということについても象徴的に描かれている。
敬虔であるが故に苦しみ、敬虔であるが故に救われもする。

一部の有力者にとって不都合な真実が黒塗りで隠蔽されることは、もちろんこの日本ではよく見る光景だし「世界の警察」たるアメリカさえ起こる。
つい先日の「ケネディ大統領暗殺の情報開示延期」ってニュースもそういうことなんだろうな。

衆院選投票日の朝、この作品を観ることになったのも何かの思し召し。
誰かに丸投げすることなく、国民がちゃんと権力を監視し評価する側にいなければね、と痛感した。

(ここからネタバレ)
本当ならただただ重くて暗い映画になりがちなところが、主人公モハメドゥという人が、本当にユーモアがあって頭が良い人物であることが、最後の本人登場であらためてよく解ったし、観ている我々もそれで少しだけ救われた気分になれた。
最後まで観客は作り手に気持ちよく振り回され、それでもちゃんとメッセージが伝わる。

この夏から秋にかけて劇場公開される作品、どれもえげつないぞ。

キレンジャー