「主人公の取った行動は現実世界ではありえない」プロミシング・ヤング・ウーマン tkryさんの映画レビュー(感想・評価)
主人公の取った行動は現実世界ではありえない
でも映画を通して観ると、作品世界内においては腹落ちできる選択として、しっかり感情移入できます。
良くできた復讐モノであり、ラブコメであり、ミステリーでもあると。
つまり、これぞ王道フィクションだし、娯楽映画なのです。
プラスして作品内で語られるテーマ•主張を私なりに要約すると、
「夫婦•恋人•友人だろうが性的同意のラインを超えたら、普通にレイプだろ。」
「特に社会的地位があり、一見すると誠実そうに装っているが、酔い潰れた人間を介抱するフリをして近づいてくる奴!お前らが1番タチが悪いよな。」
「周りの奴もさ、『スキがあった被害者にも落ち度がある。』『こんな事件で将来有望な加害者の人生を狂わせるなんて逆に可哀想』なんて言ってるけど、じゃあ被害者の将来はどうなるわけ?」
「自分や、自分の身内が同じ目に遭っても、同じこと言えるの?」
少なくとも私は、この主張は正しいと感じますし、
誰でも加害者になり得ると言う点、今まではたして傍観者的な意味も含めて加害的な行動を取ったことがないと言い切れるだろうか、という反省も込めて、真摯に受け止めざるを得ないです。
いわゆる「極悪非道なレイプ犯」みたいな奴とか、今どき存在いるのかってくらいステレオタイプな「女性差別主義者」をでっち上げて糾弾するみたいな、そういう次元では話をしないよ、と言ったポリシーにも同意です。
つまり、「恐らく正しいテーマ•主張」を「よく出来た娯楽映画」に乗っけて、「どちらも余すことなく、きっちりと語りきっている」点が最高なんです。
秀逸なのは、キャシーのしたこと、してきたことが「良いこと•正しいこと」とは描かれていない、でも彼女がそうせざるを得ないという作品内リアリティはきっちり担保しているというところですね。
当初は意図的にぼやかされていた動機を徐々に明らかにしていく中での、「ニーナの件」の加害者サイドへの復讐。当事者たちの視点を反転させることで文字通り「わからせる」というリベンジ物王道の展開も良し。
途中で恋愛描写もあるのですが、この中の挫折と別れも、きちんと復讐行為とリンクしていて、お話の推進力を弱めずに主人公の人となりのコントラストを際立たせるナイスな寄り道。
クライマックスの加害者本人との対峙、これこそが映像的に観せたかったシーンでしょう。
ここまで意図的に、
①「主人公が最強」と観客に誤認させてきた
②「主人公が振るうものも含めた対人暴力」シーン省いてきた
この2つの下準備により、「男性の力に屈服する女性」をキャシー自身が(因果応報的な側面も込みで)観客に実演するという、大変ショッキングなシーンに仕上がっています。
ラストのオチは、クライマックスの後味の悪さを払拭してくれるだけでなく、観客をカタルシスの洪水に溺れさせてくれる、正直どうかと思うくらい良く出来たエンディングです。
思うに感動って、安っちい邦画でありがちな感動的なBGMを流し、人物が涙を流しながら、話のテーマ的な良いセリフを叫ぶみたいな「お涙頂戴」演出では生まれ得ないと思うんです。
この映画のオチのように、「喜び•悲しみ•怒り•驚き他」みたいに複数の相反する感情を揺さぶられることで、脳内がぐちゃぐちゃになり、故に涙を搾り取られる=感動なのではないでしょうか。
まさに、後々に映画館で観たことを自慢したくなるような大傑作です。