劇場公開日 2021年3月26日

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「造形センスは超一流。製作7年。ストップモーションアニメの神髄を観た!」JUNK HEAD じゃいさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0造形センスは超一流。製作7年。ストップモーションアニメの神髄を観た!

2021年4月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

「期待感」と「リアル」のはざまで、意見の分かれる映画ではあるだろう。
右も左もわからない映画初製作のひとりの男が、ほぼ独学、ほぼ独力で、7年の歳月をかけて作ったストップモーションアニメときいて、みなさんはどう思うだろうか。
「しょせん、たかが自主製作映画」みたいなノリで観に行ったら、正直度肝を抜かれるだろう。
一方で、「巷で大評判、観ないとモグリ」みたいに煽られて観に行って、「あれ、そこまでのもんだったか??」と思う人がいても、別段おかしくはない。
この映画には、想像をはるかに凌駕する部分もあれば、そうでもない部分もあるからだ。
それに喝采するのも落胆するのも、客側の勝手。
本作は完全な個人製作映画だ。だから「客の先入観」からすら、自由なのだ。

僕は個人的には大変楽しめた。

正直、期待していたのは、もっとすごいものだったかもしれない(笑)。
ディストピア感満載で、ダークでシュールでシリアスで社会批評的な作品。
たとえば、『銃夢』みたいな。ぱっと、ロボット/サイボーグの冒険ときいて思い出すのは、ディズニーの『ウォーリー』だが、それとサイバーパンクのノリを混ぜたようなダークSFを勝手に想像していたのだ。あるいは、最近だと『デカダンス』のような。あれは、キンゲとモンハンとロボコンを絶妙にブレンドした凄いディストピア・アニメだった(乗り換えられる義体とか、地上と地下の二重世界とか、設定も『JUNK HEAD』とよく似ている)。

しかし、実際の『JUNK HEAD』はだいぶ違った。
設定自体は壮大だし、世界観も独特だが、お話自体はあまりそれによりかかっていない。
どちらかというと、「記憶をなくしたポンコツロボット」を冒険させるための前提と、それをとりまくビジュアルイメージ&クリーチャーの背景として活用されている程度である。
さらにいえば、映画のなかで設定や世界観はたいして説明されない。最低限わかってもらえれば十分というスタンス。パンフレットを通読して、ようやくわかること、腑に落ちることが山ほどある。逆に言えば、パンフを見ないと設定や世界観の細部は「絶対にわからない」。

かわりに、とにかく「パペットが動くこと」と「パペットの造形」「セットの造形」には、ちょっと信じられないくらいの労力と熱意とエネルギーが費やされているのは、ひしひしと伝わってきた。
やはりこれは、「人形を動かす」ことを第一義につくられた映画なのだ。

この映画の基本は、「暗がりからクリーチャーが出てきて逃げる」と「高所から落ちてバラバラになる」という「一連の動き」の繰り返しでできている。
だから、『ブレードランナー』や『オートマタ』よりは、まちがいなく『エイリアン』に近い。
アニメでいえば、地下世界における「クリーチャー&転落」のアクションという意味では、『メイドインアビス』とか。
壊れるたびに第三者の手で別の姿に作り替えられ、まわりのキャラクターと物語が切り替わっていくという意味では、ある種ロードムービー的な作りともいえる。赤い合羽の少女や三バカ(『ラピュタ』っぽい)とのシーンには、少し宮崎駿臭が漂う。
なんにせよ、この映画において「主人公の目的達成」や「世界観から導かれる批評性」には、さほど重きが置かれていない。より重視されるのは、「アクション」と「掛け合い」だ。
だから本作は、たぶん子供が見ても飽きずに楽しめると思う。
考えさせるより、造形とアクションとスラップスティックとショック描写が優先される。
キャラが惨殺されたりもするが、総じてのノリはのほほんとして、陽性で、あっけらかんとしている。
意外に、「気楽な」映画なのだ。

とにかく動かす。手をかける。こだわる。念を入れる。そこにすべてが注力されている。
この映画の核心は、「ストップモーションアニメーション」であること、それ自体である。

だから、どれだけダーク・ファンタジーやディストピアSFの要素があろうと、この作品の本質は「アルティザン」(職人)の映画である。
考えてみれば、ハリウッド超大作のSFXだって3Dだって、実際にはものすごい手間と人手がかかっていて、十二分に「職人的」ではあるのだけれど、「手作り」「コマ撮り」となると、その親密さ、触知可能な職人感はいや増しに高まる。しかもほぼ独力で作り上げたとなれば、なおさらだ(追加撮影分の1時間には数名のヘルプがはいっているそうだが)。

造形やモーションに関しては、完全に監督の「個」を感じさせるものだが、もちろん何某かの影響はあちこちから受けているわけで、既視感ゼロというものでもない。むしろ、「40代後半の男性(僕を含む)が、日本でさまざまな映画やアニメを享受してきたら必然的に身に付く」教養をビジュアルイメージの背景にもっているのは確かだろう。

あるかないかわからない影響関係を取りざたしてもあまり意味はないが、少なくともジャン・ピエール・ジュネや、テリー・ギリアム、ティム・バートン、ギレルモ・デル・トロあたりの映画とはビジュアル面での類似性が認められる。敢えてコマ撮りを選択しているだけあって、ヤン・シュヴァンクマイエルやブラザーズ・クェイとも、造形上の親和性は高い。日本人でいえば、雨宮慶太のビジュアルイメージとも地続きな部分があるだろう。

クリーチャーの造形には明らかにギーガーからの影響が感じられるが、個人的にはヘネンロッターの『バスケットケース』シリーズや、バーカーの『ミディアン』(クローネンバーグが殺し屋役で出てたあれ)なんかも思い出した。あと、似てる似てないだけでいうと『マブラブオルタナティブ』のBETAさんっぽい(笑)。
とはいえ、造形センスと実際の仕上げに関しては、たとえなんらかの影響関係はあったとしても、独自の世界を形成しているのはたしか。
完全に「グランドマスター」の領域にあり、超一流といっても過言ではない。
ご本人も、映画監督としては駆け出し感があるだろうが、ことデザインと実際の成型技術に関しては、絶対の自信をお持ちなのではないだろうか。

なんにせよ、期せずして同時期に、2作のストップモーションアニメ、『PUI PUI モルカー』と『JUNK HEAD』が世間の評判を呼んでいるというのは、なかなかに興味深い現象だ。
どちらも、製作開始自体ははるか昔であり、示し合わせたわけではない。単なる偶然なのだが、こうやってストップモーションアニメにあらためて光が当てられるのは、かつてのウォレスとグルミットやピングー、チェブラーシカあたりの人気を知る人間としてはうれしい。

コロナに苦しんだ一年を経て、「個人製作」や「手作業の温かみ」への再評価がなされている、というと、うがちすぎだろうか。

じゃい
kossyさんのコメント
2021年6月8日

じゃいさん、コメント失礼します。
プロの評論家さんのレビューを読んでる気分にさせてくれました。
それに引き合いに出す映画の幅が広すぎ!
ちょっと感動・・・

kossy
iwaozさんのコメント
2021年4月17日

「銃夢」木城ゆきとさんはすごいですよね!
しかしあらゆる面からの影響を網羅して頂き、非常に貴重なコメントありがとうございました。
自分もラピュタ、北斗の拳、ガンダム、「ウォレスとグルーミット」ヤン・シュワンクマイエル好きの40代です。(^。^)

iwaoz