「MCUから飛び抜けた世界」スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム kyamu_kyamu0さんの映画レビュー(感想・評価)
MCUから飛び抜けた世界
MCU映画特有の予定調和から一歩飛び抜けた世界観。
MCU作品の最大の短所として、どこまでいこうともMCUの中でしか完結できない、単体の作品では理解が難しく、他作品を抑えることが前提になるという点がありました。
今回のスパイダーマンは前作で戦ったミステリオの策略により、社会的に追い詰められるところから始まりますが、この時点で本格的にスパイダーマンの持つヒーローの悲哀が描かれます
小さな火種から始まり、やがてピーターの細かな選択により徐々に事態は広がっていき、最悪の結果を迎える
自身が善意で決断したことが、メイおばさんの死という形に帰着する報われなさは今までのMCUスパイダーマンでは起こり得なかった展開でした
ホームカミングでも彼の活躍により親しい人間との別れを招きましたが、それ相応の救いも用意されておりました
ですが今回の離別は彼が正しいと判断し強引に決行したことが招いたことであり、ピーターにかつてないほどのダメージを与えます
世界から批難され、肉親まで奪われた彼の前に現れたのは別世界のスパイダーマンたち
それぞれが各々の試練を経験してきたことから三人は意気を合わせますが、それでもピーターの胸の中には拭い去れない怒りがあります
終盤、仇を前にし怒りのままに手を下そうとしますが、それを止めるのは初代スパイダーマン
誰も彼にこれ以上不幸になってほしくないと願うのは、彼らが同じ思いを経験してきているからです
最後にピーターが自身の今までの人生を犠牲にし選んだ場面では、序盤の記憶消失魔術の際にあれやこれやと条件を望んでいた彼の姿はもうありません
全てを失い、ただの親愛なる隣人となった彼は、それでも夜の街を飛び交います
お祭り映画としてのゲストの豪華さもありますが、過去作品への深い理解と、それぞれの作品で報われなかった部分への細やかな救済
あくまで観客を楽しませつつ、スパイダーマンが持つ重く深い等身大なヒーロー像を丁寧に描き続ける丹念さに感歎しつつ、終始笑いながら、そして泣きながら観られる最高の映画でした
MCU作品の枠から抜け出し、スパイダーマン映画そのものの集大成と呼べる作品であり、製作側の愛と本気が伺えます
これまでの他作品が混濁したMCUスパイダーマンではなく、『スパイダーマン』そのものを描いた名作です