「小説家の想像力が展開図を広げてくれる」鳩の撃退法 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
小説家の想像力が展開図を広げてくれる
おそらく原作がよく出来ているからだろうと思うが、本作品はよく出来ている。場面は2つに別れていて、ひとつは藤原竜也が演じた主人公津田伸一が実際に体験した場面、もう一つは津田が想像する場面である。観客は津田の更に後ろに立って、安全な位置からこのサスペンスを楽しむのだが、ときには津田に感情移入して痛い思いをしたり迷ったりする。恐怖に戦いたりもする。これは面白い。
藤原竜也はいつもどおりの演技だが、その自分自身さえ突き放したような淡々とした語り口が本作品にとてもよくマッチしていた。相変わらず上手い役者だ。
風間俊介は役に合わせてまったく違う演技をする。今回は肚が据わっていながらも、どこかに迷いを秘めている複雑な役柄である。台詞外の意味を伝えられる演技をする貴重な役者だと思う。
その他の役者陣も概ね好演。坂井真紀の加奈子ママは水商売の人らしい覚悟を感じさせてくれる。編集者の鵜飼なほみを演じた土屋太鳳は、豪快にカップ焼きそばを食べるシーンと、やけに大きく見える胸がゆさゆさと揺れるシーンが印象的だった。主人公のカウンターパートとしての彼女の存在が、小説が成立するかどうかの危うい瀬戸際をうまく表現する。
立体的で多重構造の作品だが、津田の小説家らしい想像力が、展開図をわかりやすく広げてくれる。トヨエツが演じた倉田健次郎の哲学が、作品に深みを与えていた。
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