「フィッシュマンズが好きでなくても楽しめる音楽ドキュメンタリー」映画:フィッシュマンズ Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
フィッシュマンズが好きでなくても楽しめる音楽ドキュメンタリー
“J-POP”はほぼ聴かないので、「フィッシュマンズ」は世代的に少し重なるのに知らなかった。大ヒット曲がないのだから仕方ない。
バブル景気が終わる頃から、短期間活動したらしいが(メジャーデビューから8年?)、冒頭でバブリーなオーストラリアでのレコーディング遠征が映されて面白かった。
このドキュメンタリー映画は、インタビューと当時の断片的な映像で占められ、音楽をじっくり聴くことはできない。
もともとの音源の質が良いものばかりではないので、映画館の大音響で曲を楽しもうなどとは、期待しない方が良いと思う。
なので帰宅後、CD「宇宙 ベスト・オブ・フィッシュマンズ」を聴いてみた。
ポリドール移籍後の方が、オリジナリティがあって評価が高いみたいだが、自分は移籍前の曲の方が好きだ。
どこかレゲエ風だが、忌野清志郎の歌い方もパクってたりして、ジャンル横断的で、才能がキラキラしている。
一方、ポリドール移籍後は・・・。
回りくどいし、少し脱力的だし、メロディーも良くないし、「この路線では、それほど売れないな」と思う。
病的で実験的な曲の方が、コアなファンの心に刺さって、カルトな人気を得るのかもしれないが、メインストリームにはなりづらいタイプの音楽だ。
曲を聴いた後で、改めて映画を振り返ってみると、このポリドール移籍前後で、いろいろと環境の変化があったことが、良く分かる。
ムリして“売れ筋”の曲を書いたのに売れなくて、ガッカリして世評から背を向け始めたこと。
ギターの小嶋が抜け、移籍後には専用のスタジオを持ったのに、キーボードのハカセも脱退したこと。
一般的に、ある程度売れたバンドが、途中でメンバーが替わったり、ソロになって、成功した例は少ないと思う。
なぜか分からないが、そのメンバーでなければ実現できない“何か”があるのだ。
佐藤は、もともと曲作りは人には見せなかったらしいが、曲ができあがった後のアレンジは、バンドに任せる部分も多かったようだ。
しかし、最後の頃には、バンドのメンバーが入り込む余地がないデモテープを作ってきたという。
“セルフプロデュース”を始めたのは移籍前からとはいえ、佐藤は自分の世界に入り込み過ぎてしまったのかもしれない。孤立を深め、だんだん暗く沈んでくるようすが、映像にも現れている気がする。
全部で172分もあるこの映画だが、最後はダレたとはいえ、“長い”とは感じさせなかった。
少しづつ、何かが生まれ、何かが壊れていく時間の流れが、とても緻密に記録されているからだ。
インタビューの内容は濃いし、みな、とても真剣だ。
自分も、「泣いた」とか、「佐藤は時代を先取りした孤高の天才だ」などと、気の利いたことを言えば良いのだろうが、そんな心にもないことを言うつもりはない。
「フィッシュマンズ」は、それほどすごいバンドとは自分は思わない。
しかし、自分のような「フィッシュマンズ」の曲が好きでない人間にとってさえ、短い期間に自らを燃やし尽くした独特なアーティストと、そのバンドの顛末を記録した本作品は、きっと、とても興味深いはずだ。
もしかしたら佐藤という人は、“神格化”されかねないのかもしれないが、この実録ドキュメンタリーは、良い解毒剤になるだろう。