「【”こんな筈じゃなかった・・”学生の頃、何物でもなかった”僕”達が就職し、現実の厳しさに直面した”僕”と”彼女”の姿をシャープな視点で描いた作品。大人になる事の厳しさを描いた作品でもある。】」明け方の若者たち NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”こんな筈じゃなかった・・”学生の頃、何物でもなかった”僕”達が就職し、現実の厳しさに直面した”僕”と”彼女”の姿をシャープな視点で描いた作品。大人になる事の厳しさを描いた作品でもある。】
ー 冒頭の、僕たちの飲み屋のシーン。
内定を取った”勝ち組”として燥ぐ若者達の中で、静に酒を飲む美しい横顔の女性を”僕”は見つけた・・。
そして、彼女は携帯を無くしたと言い、”僕”に電話を掛けさせ、”私と飲んだ方が、楽しいかもよ・・”とメールを送って来た・・。-
◆感想
・印象的なイントロダクションである。
そして、美しき”彼女”(黒島結菜:最初、ナカナカ名前が出て来ず、”えーっと、「カツベン」に出演していた女優さんだよなあ、綺麗な人だなあ・・、”と”僕”と同じようにヤラレタ私である。)と”僕”のクジラ公園での二人飲み会。
- このシーンが、中盤同じシチュエーションで繰り返される。
但し、”彼女”が言った”ある言葉”を入れて・・。
巧い作品構成である。”僕”が”彼女”とセックスした後に流した涙の理由が氷解する。-
・楽しく、自由で、翌日の事を考えず夜明けまで飲んでも大丈夫だった日々は終わり、”僕”は出版社に、親友の尚人(井上祐貴)も同じ出版社に就職する。
そして、”彼女”はアパレルの道へ進む。
- ”僕”達が夢を語るシーンと、”僕”が総務に配属され、地味な制服を着て判を押したような毎日を過ごすシーンの対比。
尚人も、営業の旧弊的な体質に不満たらたらである。ー
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だが、配属が希望通りに行われることは稀である。
そして、総務部が、劇中でも”僕”の先輩(山中崇:日本映画の名バイプレイヤー)が”僕”に言う通り、”総てを務める”重要な部署であることは、書き添えたい。
象徴的に描かれた、作業員が指を落とすシーンで、先輩が冷静に”僕”に落とした指を氷で冷やす事を指示する姿。
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・”僕”と”彼女”の夢の様な旅行のシーン。
ー 上記に記したように”僕”が”彼女”とセックスした後に流した涙の理由が、この時点では良く分からず・・。で、後半ヤラレル・・。ー
・冒頭の飲み会で矢鱈と”勝ち組”を強調していた男と数年振りに会った”僕”。”勝ち組”であった筈の男は、いつの間にか、ネズミ講に嵌っていた。
だらしのない格好で、“一緒に事業を・・”と誘う男の姿。
- 年月は、その人の生き方次第で、最初は”勝ち組”(嫌な言葉である。)でありながら、知らないうちに”負け組”になるという事を、辛辣に描いたシーンである。-
・”僕”のところに”彼女”からラインが来なくなり、仕事も休み勝ちの”僕”の部屋は荒れ放題・・。
面白くない仕事をする中で、唯一の愉しみだと思っていた彼女とのデート。だが、彼女には”ある事情”が起きていた・・。喫茶店で戸惑いながら、説明する”彼女”。そして、このシーン以降、”彼女”はフェイドアウトしていく・・。
- 何とも遣る瀬無い気持ちになり掛けたら、親友の尚人が来ていて、部屋を片付け、甘すぎる飲み物を淹れてくれる。とてもとても、良い奴である。
優しき人間性の発露。辛い状態の”僕”にとっては、尚人の存在は、非常に大きい。持つべきものは、善性溢れる友人であるよなあ・・。-
<会社に辞表を提出した尚人。(大丈夫か!と40路のおぢさんは、思ってしまったぞ!)
”僕”と尚人は、且つての”勝ち組”飲み会をやった居酒屋(おばちゃん役の濱田マリさんが絶妙に良い。)で、グラスを交わし、夜遅くまで飲み、尚人は、
”朝まで飲んでも大丈夫だった時は過ぎた・・”と語り、二人は別れる。
“僕”は”彼女”と最初に飲んだクジラ公園を独り、訪れる。
ベンチに置かれた、空になったハイボール缶が二つ。
そして”僕”は、明け方まで飲んでも良い時代は確かに終わったのだと、改めて気づくのである。
”彼女”の思い出と共に・・。
見事な脚本であり、カメラワークであり、北村匠海さん、黒島結菜さんを始めとした若手俳優たちの演技に魅了された作品である。
今やベテランの貫禄も出て来た濱田マリさん、山中崇さん、佐津川愛美さんが、脇をガッチリ固めている作品でもあります。>