「ケベックならではの、森と共にある死生観、人生観があふれる。」やすらぎの森 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
ケベックならではの、森と共にある死生観、人生観があふれる。
本作は、深い森に囲まれた湖の映像とともに始まる。そこに身を浸し、気持ちよさそうに泳ぐ年老いた男たち。彼らの誰もが現代社会に別れを告げつつ今を穏やかに生きていることを思うと、ここは実在する天国なのかもしれない。だが、現実のものである以上、平穏も長くは続かない。そのカウントダウンが、さながらこの世の終わりのように思えるのは何故だろうか。本作の最大の特質は、自然がもたらす静謐な日々と共に、数十年前に起こった悲劇的な森林火災の記憶が随所に挟み込まれるところ。焼けた鳥たちが空から無数に落ちてくる逸話も不気味だし、ずっと施設暮らしを余儀なくされた老婆の半生も影を落とす。そんな中で、ある者は死の香りに身を浸し、またある者は生への意欲を湧き上がらせーーーー。物語の展開はどこか漠然としているものの、ケベックが舞台なだけあり、既存の宗教や死生観をこえて目の前の大自然こそを畏怖し信仰するかのような境地が新鮮だ。
コメントする