劇場公開日 2021年5月21日

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「世捨て人の老人達が捨てた過去がずっしりと重くのしかかる、カナダ版『ノマドランド』」やすらぎの森 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0世捨て人の老人達が捨てた過去がずっしりと重くのしかかる、カナダ版『ノマドランド』

2021年5月29日
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鑑賞方法:映画館

ケベック州の山間にある深い森の湖のほとりで人目を忍んで暮らすテッド、チャーリー、トム。彼らはそれぞれ事情を抱えて世捨て人となった老人で、彼らに時折生活物資を持参してくれるホテルの支配人スティーブの支援を受けて愛犬達と共に静かに暮らしていたが、テッドはある朝自分の小屋で息を引き取っていた。そんな折スティーブは父の葬儀に際して叔母ジェルトルードの存在を知る。幼い頃から精神を病んで療養所に送られて親族にも半ば見放されていたジェルトルードは60年以上に渡って世間から隔離されていたが、葬儀に参列した後療養所に戻ることを拒絶する。心中を察したスティーブは彼女を森に連れて行き、チャーリー達に紹介、空き家となったテッドの小屋で暮らすことになる。そんな静かな森にラファエルという写真家が現れる。彼女は昔その森を襲った山火事の生存者を取材している中でテッドの存在を知りスティーブのホテルを訪ねてきたのだった。彼女もまたチャーリー達の生活に興味を示すがその静かな森には大きな脅威が迫っていた。

柔らかい印象のある邦題とポスターイメージですが、内容はむしろ真逆のもの。本作の原題は“Il pleuvait des oiseaux”、“鳥が雨のように降ってきた“という意味。これは山火事の様子を生存者が語る際に森の上を飛んでいた鳥達が炎と煙に煽られて飛べなくなって落ちてきた様を表現したもので、テッドが遺した自作の絵画群の中にも描かれているもの。実はチャーリー達が密かに栽培したマリファナをスティーブが売り捌くことで成立している理想郷に暮らす人達が一体どんな目に遭ってきたかが静かに語られるずっしりと重いドラマ。特にマリー・デネージュと新しい名前を名乗ることにしたジェルドルードが徐々に明るさを取り戻す中であっけらかんと語る過去の悲惨さには言葉を失います。老人達が少年少女のように楽しげに暮らす毎日は眩しいものですが、それゆえにそんな生活が少しずつ色褪せていく様はとても切なくて、静かに訪れる結末を受け止めるのはなかなか辛い体験でした。

よね