劇場公開日 2021年7月9日

「監督はがんばったと思う」100日間生きたワニ callさんの映画レビュー(感想・評価)

1.5監督はがんばったと思う

2021年7月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

世間的には酷評されていますが、個人的にはそうは思いません。

原作自体、「100日後に死ぬワニ」というタイトルで、一日一コマ、ワニくんの平凡な日常をひたすら描写していき
100日後にどういう結末を迎えるのか(ホントに死ぬのか、どう死ぬのか、この友達たちはどう受け止めるのだろうか)という想像を伴った楽しみのあるコンテンツでした。

その楽しみ方の性質上「どうなるの?」という結末・ネタバレが最大の禁忌であり、
だからこそリアルタイムに毎日1コマずつ発表していくという形式とベストマッチしていました。

原作の方が終了し、このコンテンツを知っている人はほぼ全員が結末を知っている人になります。
※そしてコンテンツを知らない人はあえてこの映画を見に来ません…。
そうすると「平凡な日常」シーンは、本当にただの寒い日常ネタになります。
ネタとはいえ、何かを風刺するでもなく面白いネタをするでもなく、何かを誇張しているわけでもないので笑いどころがありません。
結局、オチのために進んでいくコンテンツなのに、ネタバレを知っている人に見せるのでただただ寒いものになります。

ではどうして個人的には「酷評」されるべきではないと思うのか。
それは敗戦処理のうまさです。監督の腕前です。

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、100ワニのコンテンツは一時期、各局テレビが取り上げるくらい流行りました。
その上でクライマックスである100日目、最後の100コマ目を出した直後に露骨すぎる「書籍化決定!映画化決定!グッズ販売開始!」という商業を繰りだして
それまでコンテンツを楽しんでいたファンの大半を敵に回すという最悪の結末を迎えたコンテンツでした。

その時点では映画化が決まっていたのでもうやめられません。さらに製作費は酷い低予算だったようです。
上記の通り、原作そのものがオチのためのストーリーだったのでそれだけでは映画たりえません。かといって原作のストーリーそのものを変えるわけにもいきません。

監督はおそらく悩みに悩みぬいたと思います。
そこで「やってはだめなこと」をパズルのように組み、その上で映画として成立させるためにはどうすればいいかという命題をクリアしたのがこの形式だったのだとも思います。

「あのケチがつきまくった100ワニというコンテンツをどう映画として処理するのだろう」という疑問を基に視聴すると、
とても納得のいく作品になっているのではないか、低予算でこれ以上の100ワニ映画を作る方法など無いのではないか。そう考えさせられる出来です。
上田監督は「カメラを止めるな」でパズルを解いていくような快感のある映画を撮った人であり、
そして、今回は予算・原作の縛り・映画としての成立など、そういう制約のパズルをこう解いた、という作品を出してくれたのだと思いました。

デビルマンのような素人演技に予算をぶっこんだような作品とは異なります。
ドラゴンクエストYSのような子供の頃の懐かしい思い出を土足で踏みにじったような作品でもありません。
これは100ワニ映画化という命題を全力で乗り切った監督、制作スタッフたちの努力の結晶なのです。

それはそれとして、オチを知っていて見る話ではないという原作の本質は変わりませんし、
映画の冒頭でオチが出てくるので、コンテンツを知らない人でも同じような虚無感に包まれながら映画を見続けることになります。
諸兄におかれましては、あえてこれを見に行く理由がないのであれば映画代と1時間半をもう少し有意義なことに使うことを推奨します。

最後に、
つきあいか何かでどうしても見なければならない、あるいは好奇心でチケットを買ってしまったけど、圧倒的不評を前に無為な時間を過ごす虚無感に襲われている方。
脳内でこういう茶番を妄想してみてください。

「100ワニを映画化するんですか!?」
「せや。アチアチポイントが二つあんねん。ひとつは原作のストーリーは改造せぇへん。原作改変は原作のファンが嫌がるさかいな」
「は!?…いやいやいや、あれはもう大炎上して…」
「もうひとつは豪華なキャストや。主役があの神木くん!ほんで大人気のいきものがかりにED歌ってもらうねん。これはアタるでぇ」
「そりゃ大人気な方々ですが、映画はそれだけで売れるものでは…」
「どや、やってくれるやろ」
「ええええ…」

後日
「あかん。映画宣伝が早すぎて大炎上してしもた。スポンサーも金出してくれんようになってしもた」
「は、はぁ…」
「せやけど一回告知してしもたからな。なんとかこの予算で。な!な!」
「こんだけ豪華なキャストを使うのに、この予算!?」

…はい。こういう視点をもって視聴すると、なかなか良い時間になるのではないでしょうか。

call