「ファンほど楽しめる作り」99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
ファンほど楽しめる作り
2016 年と 18 年に丁BS「日曜劇場」で放送された松本潤主演の人気ドラマ「99.9 刑事専門弁護士」の劇場版である。このテレビドラマを全話見た人にはサービス満点で、見たことがない人にもそれなりに楽しめる映画である。オヤジギャグ連発の深山弁護士の活躍がメインで、彼のミステリアスな出自などは軽く触れられる程度であった。とにかく笑えるシーンが満載で、楽しめる映画であった。
ワイン祭りをめぐって発生した毒殺事件というと、和歌山カレー事件を彷彿とさせるが、意外な犯人はエラリー・クイーンの「Yの悲劇」を彷彿とさせるもので、沢山のミスディレクションがあり、最後まで謎を解くのは困難だった。「トリック」のテイストも加えたような脚本は見事であった。
冤罪を生んだ当事者がどのように責任を取るのかという重いテーマもあり、テレビドラマ版「HERO」の最終回にも通じる話であった。司法の誤りが一家を不幸のどん底に陥れて人生や生命を奪うという話は救いがなく、その重さを中和させようというお笑いの連打だったのかも知れない。
「確信犯」という言葉はしばしば誤用されるが、本来は「犯罪であることを全然知らずに行ってしまう犯行」のことを言い、誤って使われる「犯罪であることを知りながら行う犯行」は「故意犯」と言うのが正しい。この映画の場合は間違いなく「確信犯」であり、村人たちの行動は、犯人への同情から起こったものであろうが、結局誰をも救うことはできなかった。まさに「嘘で救うことはできない」のである。仮に犯人を警察に突き出したとしても、死刑になどできない事例であり、あの人数の中で誰一人正しい判断をする者がいなかったというのはいささか奇異に感じられた。
役者は常連のメンバーが盤石の存在感を見せる一方、新メンバーの杉咲花も違和感なく溶け込んでいた。彼女を加えるためにスペシャルドラマを1本作ったのだとしたら相当な入れ込みだったというべきであろう。一方、所長に昇格した佐田弁護士は、すっかり毒気が抜けてしまって物足りなかった。
この監督は、ドラマ「警部補 矢部謙三」シリーズを手掛けた人らしいので、「トリック」臭がしても不思議ではないようだ。小ネタの散りばめ方が尋常ではなく、2回目の鑑賞にも耐えそうな気がする。
(映像5+脚本4+役者4+音楽4+演出5)×4= 88 点