「掌中の珠のような一本。とは言え・・・・。」秘密の森の、その向こう ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
掌中の珠のような一本。とは言え・・・・。
〔燃ゆる女の肖像(2019年)〕の監督/脚本の『セリーヌ・シアマ』の最新作との触れ込み。
現時点での評価は「IMDb」で7.4、
「Metascore」でも93と、極めて好評。
とは言え、73分の極短尺。
登場人物も実質五人と過少で、{ワンシチュエーション}に近い造り。
元々、映画ではなく、本国ではTVドラマなんじゃないの?と
勘ぐってしまいたくなる。
フランス映画だけあって、
「CANAL+」や「CINE+」が制作に入っているのは毎度のことだけど。
物語の骨格は至極シンプル。
母方の祖母が亡くなり、孫の『ネリー』は両親と一緒に、
嘗て祖母が住んでいた森の中の一軒家に片づけに赴く。
母親は溢れる想い出にいたたまれなくなり、
中途で帰ってしまうが、『ネリー』と父親は整理を続ける。
そんな中、彼女は母親が嘗て森の中に作った秘密基地を思い出し、
その場所に行くと、そこには見知らぬ少女が。
『マリオン』と名乗るその少女は、外見も『ネリー』そっくりな上に、
年齢も八歳と同じ。
直ぐに打ち解け、誘われるまま『マリオン』の家を訪れれば、
そこはまるっきり祖母の家だった・・・・。
時空を超え、過去の母親と邂逅するとの一種御伽噺も、
それが明らかになるまでの小道具の使い方が甚だ巧い。
食器棚の裏に残っていた古い壁紙
母親が幼い頃に使っていた(誤字の多い)ノート
足の不自由なおばあちゃん愛用の杖
祖母から孫に受け継がれた、クロスワードパズルへの嗜好
等々。
観客にそれとなく提示しながら、
自然に結論へと誘導する。
まぁ、原題自体〔PETITE MAMAN〕だから、
ネタは最初から開陳されてはいるのだけど。
また、タイムパラドクスもちゃんと考慮されており、
現在の母親と幼い母親が、同一空間に居ることはない。
不思議な二人の交流は、長続きしない当然の理由があり。
しかし、別れても、また直ぐに会えるとの、当然の環境もある。
衝撃的なエピソードを盛り込むことなく、なんとも心温まる展開で、
最後には母親との心の和解が示される。
一本の作品として観れば素晴らしいのだが、
これを通常の価格で売ることには
冒頭に挙げた理由から疑念を抱いてしまう。
もう少し、低価格にならなかったものか。