「イラン女性を象徴するメタファー」白い牛のバラッド 和田隆さんの映画レビュー(感想・評価)
イラン女性を象徴するメタファー
本作は音(サウンドデザイン)が重要な要素となっているように思う。刑務所のドアの開閉音、画面外の風の音や鳥の鳴き声、主人公のミナが働く牛乳工場のベルトコンベアーの音など、単なる自然音や生活音ではなく、そのシーンや登場人物の心情などを表現する音へのこだわりを意識して欲しい。ミナの映画好きな愛娘がろう者の設定なのは、声を発することができない、意見を言っても聞いてもらえないイラン女性を象徴するメタファーだという。
また画面構成も特徴的である。画面内の登場人物たちが窓(四角い枠)を背景にしていたり、鉄格子やドア越しのシーンが多い。これはフレーム(画面)内にもう一つのフレームを作りだし、その枠が二人を隔てたり、閉じ込められたような効果を生んでおり、音とあわせた演出の統一性、相乗効果を感じることができる。
ちなみに、牛は世界では神の使いとして神聖視する地域もある。“白い牛”はヒンドゥー教のシヴァ神の乗り物とされているが、イスラム教の祭礼で牛はいけにえとして捧げられるという。真実を知ったミナが最後に下した決断を、あなたはどう捉えるだろうか。
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