「はい、泳げません」さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について 梨剥く侍さんの映画レビュー(感想・評価)
はい、泳げません
クリックして本文を読む
ケストナーは大好きな作家で、中でも「ファービアン」(※)は、児童文学の「飛ぶ教室」「五月三十五日」と並んでベスト3に入るお気に入り。二つの大戦の間のワイマール憲法下の逼迫と頽廃のドイツで、作者の分身とも言える青年の彷徨を描く。そんな諧謔と混沌に満ちた原作の映像化として、過不足ない出来(ややラブストーリーの要素が強くなっているが)。
主演のトム・シリングは「コーヒーをめぐる冒険」以来だが、良い味を出している。ダニエル・ブリュールの雰囲気にも近い気がする。
邦題は、同じ時代を描いたボブ・フォッシーの「キャバレー」の原作と期せずして同じだが、この映画のタイトルとしては的はずれで、近頃の配給会社のセンスはどうにも解せない。
途中、市民が水たまりを次々に飛び越えるシーンは、アンリ・カルティエ=ブレッソンのあの写真へのオマージュだろうか。
ラスト近く、少年が見るファービアンの手帳のメモがせつない。そして焚書の映像は、ケストナー自身の本がナチス突撃隊に燃やされた事実を想い起こさせる。
※私が持っている小松太郎訳版はこの表記。
コメントする