「切れ味のいい殺陣も含め、本格派時代劇を目指すチームの意気を感じました。登場人物が醸し出す江戸の人情味も温かい!」鬼平犯科帳 血闘 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
切れ味のいい殺陣も含め、本格派時代劇を目指すチームの意気を感じました。登場人物が醸し出す江戸の人情味も温かい!
中村吉右衛門のテレビシリーズが有名な時代劇の映画版。原作者、池波正太郎の生誕100周年をテレビドラマとともに盛り上げる記念作であり、当代の松本幸四郎と市川染五郎の親子が主人公の長谷川平蔵の今と若き頃を演じるなど、話題も豊富。けれども、本作の魅力は何といっても、堂々たる正統派時代劇としての醍醐味にあります。
●ストーリー
火付盗賊改方長官の平蔵は、彼が若い頃に世話になった居酒屋の娘・おまさ(中村ゆり)が密偵になりたいと申し出て来ます。平蔵はその願いを退けますが、一方でおまさは、平蔵が芋酒屋主人と盗賊の2つの顔を持つ鷺原の九平(柄本明)の行方を探していることを知り、独断で調査に乗り出すのです。偶然に九平遭遇したおまさは、九平が盗っ人の風上にも置けねぇヤツがいると、兇賊のアジトを教えることになります。九平の案内でおまさが連れて行かれたのは兇賊である網切の甚五郎(北村有起哉)のアジトでした。そこを見張っていると、甚五郎の一味に見つかってしまい、九平とおまさは一味の仲間にされてしまうのでした。
おまさのつなぎで甚五郎一味の企みを知った平蔵は、急ぎ単身で馬を飛ばし、正体がばれそうになったおまさの救出に向かうのでした。
●解説
染五郎演じる無頼な若者の平蔵と少女のおまさやほれた女おろく(松本穂香)、兇賊との過去の縁を現在に絡ませ、興趣をもり立てています。
客引きの女おりん(志田未来)らも登場し、下手をすると複雑になりすぎる構成がですが、時間の行き来、多様な人物の出し入れに滞る気配はないないところが見事です。映画は初めてながら、「剣客商売」や「雲霧仁左衛門」、「三屋清左衛門残日録」などテレビの人気時代劇シリーズを数多く手掛けている山下智彦監督の手だれの演出と大森寿美男の脚本の功績といえそうです。
俳優のキャステイングも素晴らしいです。虐げられた女に情をかける平蔵を貫禄たっぷりに演じ、ユーモアも漂わせる幸四郎。柄本らベテラン勢の味わいはいわずもがな。中村、松本、志田ら女優陣は一見時代劇に不似合いかと思われますが、女の意地と悲しみの演じ分けに個性を感じました。
●感想
何よりも目を見張ったのは、甚五郎が雇った浪人たちが待ち構えるクライマックスのシーンに単身切り込んでいく幸四郎の熱演ぶりです。そして名前のように鬼の表情で反撃するときの殺気がほとばしるさまの凄まじこと!切れ味のいい殺陣も含め、本格派時代劇を目指すチームの意気を感じました。
けれども本作全体を覆っているのは、平蔵をはじめとする登場人物が見せる江戸の人情です、思わずホロリとさせられるシーンが度々ありました。
自首してきた九平に対して、またあの美味い芋酒が飲みたいと寛大な対応を見せる平蔵には鬼平というあだ名よりも、仏の平蔵といったほうが相応しいと思えました。