「時代劇らしい時代劇」鬼平犯科帳 血闘 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
時代劇らしい時代劇
池波正太郎さんの生誕100年記念作品シリーズの流れをくむ本作。「仕掛人・藤枝梅安」がとてもよかったので、期待して公開初日に鑑賞してきました。観客は中高年男性を中心に10名にも満たない状況でしたが、作品は正統派時代劇として上質な仕上がりでした。
ストーリーは、火付盗賊改方として「鬼の平蔵」と恐れられていた長谷川平蔵が、網切の甚五郎一味による凶悪な押し込み強盗事件を捜査していたところ、平蔵が若き日に世話になった居酒屋の娘・おまさが、平蔵のために独断で探索を続けるなかで、平蔵にまつわる過去の因縁が明らかになっていくというもの。
わかりやすいストーリーで、本格的な時代劇を楽しめるので、時代劇の入門編として若い人にもおすすめできる、というか観てほしい作品だと感じます。当時の街並みや調度品、行き交う人々の息づかいが、江戸の雰囲気をうまく醸し出しています。背景にぼんやりと映るだけの町民たちもしっかり演技しており、細部までのこだわりを感じます。
きちんと作り込まれた世界観の中で、火盗提灯をバックに名乗る鬼平の姿は本当に絵になります。鬼平の殺陣も見応えがあり、大人数相手の無双ぶりはちょっとやり過ぎな感じもしましたが、甚五郎との対決は北村有起哉さんの斬られぶりと相まってお見事でした。一方、市井のシーンでは志田未来さん演じるおりんへの声かけに心が温まり、お裁きのシーンでは柄本明さん演じる九平への裁決が涙を誘います。硬軟それぞれの平蔵を、熟練の俳優たちがしっかり演出しているのを感じます。
終盤は、過去の因縁を紐解きながら、冒頭シーンを回収していきます。王道でわかりやすい展開ではあるのですが、見方を変えれば平凡で意外性に欠けるとも言えます。そういう意味では、もう一捻り欲しかったところです。また、本作の肝であるおまさについても、あそこまで平蔵に尽くす理由が釈然としません。加えて、若き日の彼女は、“おろくは自業自得だ”と捉えています。おまさの背景や内面を掘り下げていたなら、彼女の行動がもっと熱く響いてきたのではないかと思います。とはいえ、大スクリーンで、鬼平の新作を観られた満足感は高く、多くの人にお勧めできる作品に仕上がっています。
主演は松本幸四郎さんで、鬼平を好演しています。本作では脇の俳優陣に助けられていた感もありますが、今後も鬼平を演じ続ける中で、中村吉右衛門さんを超えていくことを期待しています。脇を固めるのは、中村ゆりさん、志田未来さん、北村有起哉さん、松本穂香さん、仙道敦子さん、市川染五郎さん、中井貴一さん、柄本明さんら。ベテラン俳優陣の確かな演技が、作品全体を上質なものにしています。
じきょうさん、共感&コメントありがとうございます。
本作のレビューを上げておられないようなので、こちらに返信いたします。
確かに“残心とキメ顔”がよかったですね。これぞ時代劇って感じです。