劇場公開日 2021年4月29日

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「舞台を観るように楽しめる」FUNNY BUNNY 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0舞台を観るように楽しめる

2021年5月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 悪くない。会話劇だからどうしてもやや冗長になってしまう部分はあるものの、互いの会話を相対化してしまう台詞が続き、日常ではあり得ない会話をあくまで日常の舞台として描写するところがとてもいい。会話自体がスリリングで観客の想像を裏切り続ける。ドストエフスキーの小説のようだといったら言い過ぎだろうか。

 中川大志は前作の映画「砕け散るところを見せてあげる」の力演も、その前の映画「ジョゼと虎と魚たち」のアフレコも、いずれもとてもよかったが、本作品ではまた別の一面を見せていて、小ホールでの演劇みたいな演技を滑舌よくやってのけている。この人はテレビドラマ「G線上のあなたと私」では妙に縮こまった芝居をしていたが、流石に二十代の吸収力を見せて、どんどん演技が上手になっていった。本作品の飯塚健さんとは相性がいいのだろう、現時点でのこの人のいいところがすべて出ていたように思う。まだ22歳。間違いなくいい役者になっていくと思う。
 前半での相手役を演じた岡山天音は26歳にして既にベテランのバイプレーヤーみたいな雰囲気がある。この人はどんなに非現実的な設定も日常のレベルに引き下げてしまうような演技をする。おかげで芝居にリアリティがもたらされる。青春の群像劇にはこれからも引っ張りだこになるのだろう。

 さて本作品は近しい人の死に際して残された人々がどのように振る舞うかという、古典的というか、お馴染みのテーマを扱っている。お馴染みということは、普遍的なテーマだとも言える。そのテーマをどのように演じさせるかが演出家の腕の見せ所だが、本作品では会話劇の都合から現実を小劇場のサイズに切り取って舞台にしている。それを工夫と見るか非現実的と見るかは観客次第だ。
 飯塚監督の想像力は階段を踏みしめるように一歩一歩進んでいく。もう少しチャチャッと進んでもよさそうなものだが、会話に間があるように飯塚監督のストーリー展開にも間があって、それはちょうど舞台の転換のために暗転しているみたいだ。舞台の観客は暗転の間にこれまでの物語を振り返ったり次の展開を予想したりして、暗転そのものを楽しむ。本作品は映画だが、極めて舞台的である。当方はときどき観劇もするので、本作品は舞台を観るように楽しめた。
 一番のヤマ場は環七の橋のシーンだと思う。「お前に何がわかる」というありふれた台詞に対して「ではお前は何をわかっているというのか、それを教えてくれ」と返すのは初めて聞いた。これは新しい。今後の芝居や映画に大きな影響を与えそうだ。こんなふうに返されるのであれば「お前に何がわかる」という台詞そのものが成立しなくなる可能性もある。
 本作品はディテールにこだわっているところもあって、ひとつ挙げれば東京03の角田晃広が演じた飲食店の店主である。うちはラーメン屋ではなく中華料理店だと店主は主張する。たしかにその通りだ。担々麺を食べ終えた丼の底には「再見(ツァイチェン)」の文字がある。最後の最後に妙なところで感心させられたのであった。

耶馬英彦