「凡庸さの中の哲学」愛と闇の物語 zem_movie_reviewさんの映画レビュー(感想・評価)
凡庸さの中の哲学
映画、物語として鑑賞するとただただ平板で凡庸な毒にも薬にもならない展開ですが、時々で出てくる言葉が、特に、最初の家族での食事での会話からの流れでの母子の対話、に最後まで引っかかり、その意味を考えながら鑑賞していました。どういう会話だったのかは実際に鑑賞なさって確認下さい。
この映画、ナタリー・ポートマンが伝えたかったことはそこに凝縮されているんだろうなと確信します。
舞台は第二次大戦の終盤の中東でのイスラエル建国前から始まります。イスラエルに世界中からユダヤ人が集まり、アラブ人との摩擦を抱えつつ、なんとか一緒にやっていこうという姿、これは英国を共通の敵として収まっていた、からイスラエルの建国からアラブとの闘争を欧州から引き上げてきたナタリー・ポートマン演じるファニアの家族の様子を通じて描いています。が、そこの描き方がとてもバランスが取れており、誰かに憎悪を向けるものでもなく、そこにも哲学的考察がなされています。
それから、ファニアはいろいろなストレスから壊れていきます。(と私には見えました)
良好に見える夫婦関係、嫁姑問題、引き上げてきた苦しい記憶、甘い思い出、イスラエル建国を巡る世情、内戦、中東戦争、、、、上げればキリがないです。
そういうところをバランス良く、逆に言えば山場もなく淡々と描いていくのは逆にすごいと感じました。
なお、映像に関しては凡庸です。どちらかといえばつまらないです。が、音の演出は秀逸で、常に生活音に囲まれ、町中の喧騒も音の位置が的確で気持ちの緩急が表現されています。(200人以上の箱を私一人だったので余計に。幽霊でもいるんか?というレベル)
そうだ、クリント・イーストウッドっぽい映画ですね。これ。