「傷つき助けを求める美しい女は、原状に悶々としている無垢な青年にとっては、危険すぎた!」ドリームランド kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
傷つき助けを求める美しい女は、原状に悶々としている無垢な青年にとっては、危険すぎた!
WOWOWの放送にて。
逃避行ものが基本的に好きなんだなと、今さら気づいた次第で…。
いわゆる逃亡劇の中にあって、男女の許されない関係を成就させるためにシガラミから逃避する旅の物語は、濡れ衣を晴らすために追手から逃亡して最後に無実を証明できる類いとは異なり、ハッピーエンドは期待できない。悲恋物語のカタルシスに、逃亡のサスペンスが重なるから面白いのだ。アメリカ映画では犯罪を絡ませてよりエキサイティングな物語に仕上げている例が多い。
30年代のテキサスの田舎町。不毛な土地に移住した夫婦の下に生まれた男の子がやがて青年となり、強盗殺人で指名手配されている美しい女と出会ったことで、人生を大きく狂わせていく。
父親は男の子が幼い頃に家族を捨て、母親はその後再婚して妹が生まれている。その異父妹の語りで物語は進行する。
主人公の青年ユージーンを演じたフィン・コールは、時折『トゥルー・ロマンス』のクリスチャン・スレーターに似た面影を見せる。
女強盗アリソン役のマーゴット・ロビーは製作にも名を連ねている。メキシコに向かう途中で二人が銀行を襲う場面で、金を受け取ったアリソンがカウンターからヒラリと降りる足さばきの美しさは、『俺たちに明日はない』のフェイ・ダナウェイを彷彿させる。
犯罪を絡ませてよりエキサイティング…と書いたが、本作はそれほどエキサイティングではない。巨大な砂嵐のインパクトに持っていかれた感がある。
とはいえ、納屋に隠れたアリソンに妹が近づくシーンや、ユージーンがアリソンに関わる捜査書類や証拠品を盗み出すシーンの演出は巧みで、サスペンスとしての見所もある。
ユージーンとアリソンの逃避行は、尺としては短い。だがそこには色々な要素がてんこ盛りで、そこまでのゆったりとした進行が冗長だったのではないかとさえ思えてしまう。
まず、ユージーンが童貞を卒業する青春譚。アリソンが指南する場面が胸をくすぐる。
次に、ユージーンが銀行強盗に手を染める転落劇。起こるべくして起こる悲劇はショッキングだ。
それをきっかけに二人の間に亀裂が生じ、本当にアリソンは殺人を犯していないのか、緊張が走る。たが、ここで初めてアリソンからの熱烈な愛情が表現されたようでもある。
そして、二人を追い詰めた養父が最後に垣間見せる父親としての振る舞い。ユージーンが養父と折り合いが悪かったのは、養父の継子いじめがあったように見えていたが、ユージーンが実の父親への執着から養父を拒否していたのではないかと思わせるに至る。
かくして、ユージーンはかつて実父が活路を見いだし、そして恐らく夢破れたメキシコの地に単身でたどり着いたのだろうか。
そして、そこに彼が自らの罪と向き合うための空間はあっただろうか。
もしかすると、探偵読み物で憧れたアウトローへと転がり落ちていったのかもしれない。
いずれにしても、それを知る者はいないのだ。