クライ・マッチョ : 特集
クリント・イーストウッド、監督50周年で“到達点”へ
誘拐から始まる感動作、今伝えたい本当の[強さ]とは?
あなたの“人生の一本”を更新する奇跡の映画体験
“レジェンド”という言葉がやや安易に乱発されがちな昨今にあって、いまなお最前線で精力的に活動を続けるクリント・イーストウッドは、映画界における文字通りの“リビング・レジェンド(生ける伝説)である。
監督デビュー50周年を迎えた彼の記念すべき40作目の監督作であり、主演も務める最新作「クライ・マッチョ」が、いよいよ1月14日に公開。映画.com編集部がひと足先に鑑賞してきたので、ネタバレなしでレビューを記述していく。
作品のキャッチコピーは「感動はここから始まる」。多くの映画ファンにとって、年が明けて初めて映画館で目にする映画になるかもしれない本作だが、早くも今年最高の1本……いや、もしかするとあなたの“人生の1本”を更新する作品となるかもしれない。あなたを勇気づけるような希望が描出され、驚きとともに感情の大渦に飲み込まれる奇跡のような映画体験が待っている!
クリント・イーストウッド 監督・主演で面目躍如
さらにコロナ禍での撮影も…あなたは奇跡を目撃する
本作の見どころのひとつは、なんと言ってもこの男の存在だ。
●イーストウッドの雄姿に痺れる、憧れる 描くは、落ちぶれた男と親の愛を知らぬ少年の“魂の交流”
本作でイーストウッドが演じるのは、かつてはロデオ界のスターだったが、落馬事故をきっかけに落ちぶれた、年老いたカウボーイのマイク。かつての雇用主に「メキシコで元妻と暮らす10代の息子・ラフォを連れ戻してほしい」と懇願され、過去の恩義を返すべくこの難題を引き受ける。
メキシコに赴き、闘鶏用のニワトリ“マッチョ”だけを抱えてストリートで生きてきたラフォを半ば誘拐のような形で拾う。警察やラフォの母親が放った追手をくぐり抜け、マイクはアメリカに向かう。
親の愛を知らないため、当初は「誰も信じない」と心を閉ざしていたラフォ。しかし、老いや弱さも含めた自らの姿をさらけ出し、生き方を示してくれるマイクの持つ“本当の強さ”に憧れを抱き、次第に心を許していく――。
年の差を超えて、時に旅先の街で出会う人々や荒くれの馬を介して、魂と魂で結びつく男たちの姿がまぶしい。過去、イーストウッドは幾度となく“強い男”を演じてきたが、この作品で彼が体現する“本当の意味での強さ”は、生きづらさを抱えていたり、進むべき道を見失いがちな現代の観客の心に、ポッと希望の灯をともしてくれることだろう。
●もはや“映画の神” 監督・主演、しかもコロナ禍を乗り越えこのクオリティ!
俳優として「荒野の用心棒」、「夕陽のガンマン」といったマカロニウエスタンで人気を博し、「ダーティハリー」シリーズで世界中の映画ファンの心を鷲づかみにしたイーストウッド。さらに監督として「許されざる者」「ミリオンダラー・ベイビー」で2度にわたってアカデミー作品賞・監督賞を受賞……100年とちょっとの映画の歴史において、約60年以上にわたって最前線で活躍を続けてきた。
1930年生まれの90代の人間がハリウッドの最前線で映画を作り、自ら主演する。それがどれほどすごいことか! しかも、そのクオリティたるや、いまなおハリウッドの一線級なのだ。さらに本作の撮影はコロナ禍のまっただ中。キャスト・スタッフの健康と安全を第一に考え、万全の感染防止対策が敷かれた中での撮影となったが、そんな状況をものともせず、最高品質の作品を作り上げた。
ちなみに映画界での1930年生まれの“同級生”に深作欣二(2003年没)やジャン=リュック・ゴダールがおり、別の世界に目を向けると、2歳年上の1928年生まれに“漫画の神様”手塚治虫(1989年没)がいる。
この「クライ・マッチョ」で、イーストウッドの“いま”の姿をスクリーンで拝めることが奇跡と呼ぶにふさわしいこと、もはや彼を“映画の神”と呼んでも差し支えないであろうことがわかってもらえるだろう。
●観客満足度、驚異の100% 鑑賞後にどんな思いが飛び出した?
ちなみに本作は2021年10月31日から11月8日の日程で開催された、第35回東京国際映画祭において、記念すべきオープニング作品として上映された。そこで本作をいち早く鑑賞した幸運な観客にアンケートを実施した結果、回答してくれた全員が「満足した」と明記していた。つまり、観客満足度は驚異の100%ということだ。
さらに「本作を勧めたいですか?」との質問にも、全員が「必ず勧める」「おそらく勧める」と回答。
また、感想や好きなシーン、本作で描かれるメッセージについて書いてもらう欄では、
「悔し泣きをするラフォに向けられるマイクの力強く優しい眼差しは、まるでイーストウッドに今の私たちを心配しながら見つめられているかのように感じました」(30代女性)
「人間には然るべき居場所が必ずあるということ」(20代男性)
「弱さを知ることで得る強さ」(50代男性)
「現実を受け入れ、真摯に生きるということ」(60代女性)
「血の繋がりはなくとも、年の差があっても、信じられる人との出会いは宝物だと感じられた」(50代女性)
など、性別や年齢を問わず、いまの時代にイーストウッドだからこそ描きうるメッセージに言及する感想が多く寄せられた。
記念すべき50周年&40作目にして“映画人生の到達点”へ
イーストウッドは何を伝えたのか? 劇場で確かめよう…
本作は、何をおいても“今観るべき”作品である。それはなぜか? イーストウッドの記念碑的映画であり、現代に生きる人々が必要とするメッセージがこもっているからだ。
●監督人生50周年、日本公開40作目 記念碑的一作は全映画ファン必見必聴
イーストウッドが「恐怖のメロディ」(1971年)で初めてメガホンを握ってから、今年は50年目にあたる。さらに、日本で劇場公開される監督作品として、「クライ・マッチョ」がちょうど40作目となる。
単なる数字上の節目ではない。これはクリント・イーストウッドという映画人の半世紀以上におよぶ映画人生の到達点であり、過去39作の監督作の積み重ねの上に、90代にして開いた新たな境地なのだ。
時代遅れのカウボーイと、孤独がしみついた少年が、コロナ禍の現代に問いかけるメッセージとは――? 1月14日、万難を排して映画館で鑑賞するべし。
●「グラン・トリノ」「運び屋」「荒野の用心棒」…代表作を彷彿するシーンが多数登場
本作がイーストウッドにとってただの通過点である一作ではなく、現時点での“集大成”でもあるのだと感じさせられる理由として、過去の代表作を彷彿とさせるシーンやモチーフがあちこちに散りばめられているという点がある。
イーストウッド演じる主人公マイクと少年の交流は「グラン・トリノ」で見られた構図であり、誘拐犯と少年の逃避行は「パーフェクト ワールド」(この時、イーストウッドは誘拐犯を昔から知る保安官に扮した)そのものである。
マイクが警官に追われ、麻薬所持を疑われるシーンは「運び屋」を連想させるし、ちゃっかりマイクが「俺は“運び屋”じゃないんだ…」とこぼしたりもする。マイクがうたた寝(帽子をかぶったまま眠る姿が最高にカッコいい!)から目覚め、口にするセリフは「荒野の用心棒」を匂わせるし、ちょっとしたシルエットが荒野にたたずむ“ガンマン”のように見えることも。
ほか、「マディソン郡の橋」やその他の名作を彷彿させるシーンが多数。イーストウッドのフィルモグラフィーをめぐるかのようなこの「クライ・マッチョ」は、彼に対する感謝の念すらわき上がってくる、2時間弱の至福の旅路なのだ。
ありがとう イーストウッド!映画史に刻まれる伝説…
豪華すぎる面々が現場の驚き、受けた影響を語る
各界の著名人からさまざまなコメントが到着。まずは、イーストウッド監督50周年を祝う言葉の数々を紹介しよう。
渡辺謙(俳優)「クリント、新作の公開おめでとうございます。彼の映画作りは、いくつになっても無理せず、スタッフを信じて1日ずつカットを積み上げていくんです。多分、呼吸するのと同じくらい自然なんです。だから俳優達も自然に、その呼吸に合わせているだけで、役が息づいて来るのです。本当にクリントとの時間は刺激的で楽しかったなぁ、、。」
スティーブン・スピルバーグ(映画監督)「クリントはアメリカを象徴する監督だ。彼の心には、物語を伝える情熱が溢れている。」
荒木飛呂彦(漫画家)「イーストウッド監督作品は50周年。いつ観ても、どれを観ても、ずーーっと面白い。その流れにある新作『クライ・マッチョ』公開は本当に嬉しい出来事! 誇り高い気持ちにさえなる。周りを『グラン・トリノ』のスタッフが固めているなら、もっと尚更だ。」
そのほか佐藤浩市、伊原剛志、中村獅童、忽那汐里、梯久美子、李相日、LiLiCoらも、イーストウッドへの愛のコメントを寄せている。全文はこちらのページで確認できる。
そして、今作「クライ・マッチョ」を鑑賞した感想も、以下に抜粋して紹介しよう。
山田洋次(映画監督)「『もっと老けろ、背を曲げてヨロヨロ歩け!」』と叱りつける凛々しい監督と、穏やかに従う老俳優の姿が目に浮かぶ。両方ともクリント・イーストウッドだ。」
芝山幹郎(評論家)「人生に根気よく向き合っている人なら、この映画の味わいがわかるはずだ。心の深い人、実のある人も。イーストウッドの運転する車は、やはり乗り心地がよい。」
斉藤博昭(映画ライター)「安定の演出力。しかし予想をはるかに超えてきたのは、しみわたる後味だった。イーストウッドは、なぜこの役を自分で演じようと思ったのか? 主人公の運命を見届けたその瞬間、巨匠がめちゃくちゃ愛おしく、胸が張り裂けそうになった!」
これほどの熱量に触れながらも、この“事件”を無視して映画館に行かないなどという選択肢があろうか? 2022年の“映画初め”にぜひ映画史に残る傑作を目撃せよ!