レミニセンス : 特集
“天才”J・ノーランが仕掛ける衝撃の“記憶潜入”を
編集部が体験してきた 今いるのは、現在か、記憶か?
あなたは必ず“騙される”新感覚SFサスペンス超大作
ウィリアム・シェイクスピアは「ハムレット」で「人は記憶の奴隷である」と書いた。9月17日から公開される「レミニセンス」は、人の行動を規定する記憶に焦点を当てた“新感覚SFサスペンス超大作”だ。
主演は「X-メン」「グレイテスト・ショーマン」のヒュー・ジャックマン、共演に「グレイテスト・ショーマン」「ミッション:インポッシブル フォールアウト」のレベッカ・ファーガソン。クリストファー・ノーランの弟であるジョナサン・ノーランが製作、その妻で「ウエストワールド」の演出で知られるリサ・ジョイが監督・脚本・製作を担い、究極の映像世界と情動を喚起する物語を創出している。
ジークムント・フロイトはこうも言った。「人は不快な記憶を忘却することで自己を防衛する」。本作は、人々の記憶に潜入し、過去と現在の真実を明らかにしようともがく男の物語である。
唯一無二の映画体験“記憶潜入(レミニセンス)”
物語と見どころ解説 あなたはトリックに騙される――
[あらすじ]
多くの都市が水没した世界。記憶に潜入し、それを時空間映像として再現する「記憶潜入(レミニセンス)エージェント」のニック(ヒュー・ジャックマン)とその相棒(タンディ・ニュートン)に、検察からある仕事が舞い込む。瀕死の状態で発見された新興勢力のギャング組織の男の記憶に潜入し、組織の正体と目的をつかむというものだった。
男の記憶から映し出された、事件の鍵を握るメイ(レベッカ・ファーガソン)という名の女性を追うことになったニックは、次々とレミニセンスを繰り返していく。しかし、膨大な記憶と映像に翻弄され、やがて予測もしなかった陰謀に巻き込まれていく。
[見どころ]“もうひとりの天才”ジョナサン・ノーランが仕掛けた記憶潜入の面白さ
製作を担ったのは、クリストファー・ノーランの弟であり、脚本家として「インターステラー」「ダークナイト」などの物語を編み上げたジョナサン・ノーラン。いわばノーラン作品の輝きの源泉である“もう1人の天才”が、妻であり演出力に長けたクリエイター、リサ・ジョイ監督(本作は脚本と製作も兼務)とタッグを組み、新感覚の映像世界を創出した。
そもそも記憶潜入(レミニセンス)とは何か? 宇宙船のコールドスリープのような形をした特殊な機械を使用し、人の記憶を“現実に再現する”ことである。犯罪捜査でも活用され、証言ではなく記憶から事件解決に至るケースも多い。
ただし、いいことづくめではない。3つのルールが存在する。
ルール1:潜入できる記憶は、対象者が五感で体感した世界すべて。
ルール2:同じ記憶に何度も入ると、対象者は記憶に呑み込まれ、現実に戻れなくなる。
ルール3:記憶に“事実と異なるもの”を植え付けると、対象者は脳に異常をきたす。
[衝撃]今見ているのは現在か?記憶か? 記憶をめぐるトリックに驚く
あえて「現実に再現する」と回りくどく書いたのには理由がある。記憶潜入は映像や仮想現実とは異なり、五感のすべてを再現できるのだ。例えば繋いだ手のぬくもり。すれ違ったあとのコロンの匂い。記念日に食べたディナーの味。大切な人の笑顔。心地よい子守唄……。さらには、本人が覚えていない無意識の記憶すらも具現化できるため、ほとんどタイムマシンのように過去を体験することができる。
そして物語は、ニックが記憶潜入(レミニセンス)を繰り返す様子と呼応。今、画面で起こっていることは現実か? それとも記憶なのか? 魂は目まぐるしく現在地を変え、観客の予想は常に裏切られる。やがて訪れる驚愕の結末――主演のヒュー・ジャックマンですら「騙された」というこの記憶のトリック、あなたは真実を見破れるだろうか。
映画.com編集部が、記憶潜入を体験してみたら…
二転三転、息もつかせぬ展開が“加速度的没入”を生む
本作は映像を観るだけに留まらない、「物語を体験できる」ほどの没入感が特徴だ。映画.com編集部員の“O”が本作を鑑賞した際には、没入に没入が重なり、主人公のニックと同じ目線で物語を追体験できた。ここではその模様を、主人公の一人称視点で記述していく。
ケース①:同じ記憶を繰り返し見続ける女
記憶潜入エージェントのニックの1日は、大抵の場合、ある女性の依頼から始まる。
「こんにちは。またあの記憶を用意してくださる?」
彼女の名はエルサ。記憶潜入装置に寝かせ、お望みの記憶をセットする。一連の動作を僕は目をつぶっていてもできる。毎日毎日、彼女は決まった時間に同じ記憶を見続けているからだ。
エルサが男のベッドに潜り込む。夫ではない男だ。がっしりとした腕と胸の間に体を預け、そっとキスする。男はお定まりの愛の言葉をささやく。エルサは満たされたような笑顔を浮かべる。それで終わりだ。
この装置は安息の陰で眠る悲しみも再現できる。彼女が深い喪失を抱えていることは、記憶に潜入すればすぐにわかった。エルサはつらいことのほうが多い人生を、短く幸福な記憶で癒やそうとしているのだ。
エルサが部屋を出て行くのを見届け、事務所に戻ると、僕の相棒が一本の電話を受けたところだった。その瞬間、僕たちのそれまでの日常が崩れ去っていったことを、この時はまだ知る由もなかった。
ケース②:瀕死の状態で発見されたギャングの男
電話は検察からだった。「とにかくこっちへ来て。仕事よ」。要件を手短に告げ、検察官はぶっきらぼうに電話を切った。
この街の昼は暑すぎる。だから人々は夜に活動を始める。あたりがすっかり暗くなってから相棒とともに登庁すると、記憶潜入装置には見るからに死にかけの男が横たわっていた。
「ギャングの下っ端、つまりただのチンピラよ。でも、私たちが追っているギャング組織と関わりがあったらしいの。どういうわけか今は瀕死だけど」
検察官は1枚の写真に目を落としながら続けた。「チンピラの記憶から、この人物の手がかりを見つけて」。
今や容疑者や証人が口をきけなくなっても、生きてさえいれば“嘘偽りのない証言”が引き出せる。犯罪捜査は画期的な進歩を遂げたのだ。検察官に渡された写真にはアジア人男性が写っていた。名はセント・ジョー。ギャング組織のキーマンだという。
死にかけのチンピラ(略して死ンピラ)の記憶をスクリーンへ投影する。8ミリフィルムの映画みたいにざらついた映像は、死ンピラがニューオーリンズのある建物に入っていく様子を主観でとらえていた。一見すると普通のバーだが、カウンターやテーブルには顔の知れた裏社会の有名人たちが座っている。タイムスタンプを見ると、5年前の日付を示していた。
検察官が弾かれたように立ち上がり、水槽の隣に佇む男を指差した。「ビンゴ! セント・ジョーだ」。吠えるような歓声が上がり、検察官や相棒は食い入るように画面を見つめ始めた。しかし僕はまったく別の理由でこの記憶に釘付けになっていた。
セント・ジョーの傍らに立っている女性。メイだ。間違いない。幸福のさなか、何も告げずに僕のもとから去った謎多き女性。彼女が5年前のニューオーリンズで、ギャング組織と関係を持っていた――? 僕の視界がくにゃりと歪んだ。世界がぐるぐる回り始め、やがて何も見えなくなった。
ケース③:記憶潜入<レミニセンス>エージェント・ニック
メイとの出会いは運命だったのだと思う。彼女は唐突にやってきて、帰り支度をする僕を呼び止め「忘れ物を見つけてほしい」と言った。そのときは別段、何かを感じたりはしなかった。ただ「ああ、またか」と、終わりのない記憶の海へ足を踏み入れることに、少しばかりうんざりしただけだ。
メイは翡翠のピアスを外して装置へ横たわった。僕は記憶に潜入していく。彼女はナイトクラブの歌手のようだ。ピンスポットが落ちるステージに立ち、深く息を吸い込み、そしてささやくように歌い始めた。僕は息を呑んだ。それは僕の祖父がよく歌っていた曲だったからだ。心の一番深い部分に小さな石を投げ込まれ、それをきっかけに堤防が決壊するみたいに、僕の中で何かが決定的に変わっていくのを感じた。
それからほどなくして、僕とメイは恋に落ちた。領主の荘園に忍び込み、芝生のうえにマットを広げ、ワインとパンを傍らに何時間も抱き合った。夕暮れが空を赤く染め、透明の刷毛で重ね塗りするみたいに夜の闇へ変わっていくのを飽きもせず眺めた。危うげなほど繊細な魅力が、彼女の周りを蒸気みたいにほんわりと包んでいた。
「ねえ、記憶に浸り続けると人はどうなるの?」と彼女は聞いた。「記憶は麻薬よりも依存性が高い。気をつけないと飲み込まれる」と僕は答えた。「なぜ人は過去に救いを求めるの?」「誰もが愛する人との再会を望むからだと思う。過去とは時間のネックレスのビーズであ『ビービービービービービー』記憶という船を漕いで過去を旅す『ビービービービービービー』『ビービービービービービー』『ビービービービービービービービービービービービー』
「起きろ!」
僕が跳ね起きると、相棒がアラームのボリュームを最大にし、懇願にも似た絶叫を張り上げていた。僕は記憶潜入装置に入り、メイの記憶を貪るように見ていたのだった。しばらくして相棒は呆れ果てた顔で自室へ引き上げていった。
また記憶に入ってしまった。僕はいろんなことがうまく思い出せなくなっていた。幸福の絶頂で、メイは僕の前から姿を消したのだ。何もかもが恐ろしく遠い昔に起きた出来事のように感じられた。
メイは5年前、ギャング組織に身を寄せていた。それがどういう経緯で僕のもとへやってきて、そして去っていったのだろうか。せめてもう一度、メイに会って話がしたい。彼女の手がかりはニューオーリンズとセント・ジョー……僕はやがて、想像だにしない“大きな陰謀”に巻き込まれていくのだった――。
※この物語の続きは映画館で!
クリエイター・山崎貴も記憶潜入を体験
随所に張られた“巧妙な伏線”を解説
最後に、もうひとり“記憶潜入(レミニセンス)”した鑑賞者の体験談を掲載し、この特集を締めくくろう。語ってくれたのは、「ALWAYS 三丁目の夕日」「寄生獣」などの山崎貴監督。VFXとエモーショナルな物語を得意とする名クリエイターが、本作の最も特徴的なSF的要素である”記憶潜入”という設定、そしてその世界に生きるキャラクターについて詳述した。
2021年8月26日に行われた本作のイベント(LA生中継舞台挨拶)では、山崎監督はアメリカからリモートで参加したリサ・ジョイ監督、ジョナサン・ノーランと本作の魅力について語っていた。
山崎監督は本作に対して、以下のようにコメントを寄せていた。「SFとは特殊な設定がつきものだ。そして、そのシチュエーションでしか語れない物語であるべきだが、なかなか難しい。しかし、それを見事にやってのけた! あの最後の甘美なシーンが全てを呑み込んだ。誰にでも共感できる、映画でしか描けない感情がそこにあった」
「この設定じゃないと語れない物語ってSFはすごく大事なことだと思っていて、その中で大仕掛けの世界観と装置を用意して、それでなければ語れない物語をちゃんと築き上げたってところが素晴らしいなと思ったのと、やっぱキャラクターたちが皆多層構造を持っているんですよ。表層の顔から奥深くの、話が進むにつれてこの人、実はこうだったのかってどんどんどんどん暴かれていく様子が興味深かったですよね。それはね、メインではない人たちにも、ちゃんと重層的なキャラクター作りをしていて、それが見事だなと思いましたね。悪徳警官とかもね。すごくマルチなというか、レイヤーの深いキャラクター作りしていて……少し脇の人たちにもちゃんとそういうことをやっているっていうことが、実在している人間感を出していってる。本当に存在している人間ってそういうもんじゃないですか。そんな一面的に捉えられないものだから。それをちゃんとSFの中でやっているっていうのは面白いなって思いましたね」
そして、そのほかの魅力について「『これはもう見てくれ!』としか言いようがないんですけど、言葉にしてしまってはいけない、言語化してはいけない部分というのが映画の醍醐味であるので。なかなか日常では味わえない気持ちになる。不思議なとこに連れて行かれるんですよね。それが最初に映画のパッケージの雰囲気から受けた印象とは全然別な場所で。『はは~! ここに連れてきましたか!』ってところに連れて行かれたので、それはなかなかのものだったなという印象の作品です」と含みを持たせていた。
さて、映画館で“呑み込まれる”準備はできただろうか。山崎監督の言う「最後の甘美なシーン」を、ぜひとも堪能してほしい。