「はかないラブソングと切ないディストピア」レミニセンス Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
はかないラブソングと切ないディストピア
人の記憶、海の記憶
サスペンス仕立てのSFなのだから、記憶潜入の仕組みを理解したり、筋書きを追ったりして楽しまねばと思っていたのに、それよりも、いつの間にかラブソングが詠み込まれた長い叙事詩みたいなものを味わってしまった…と言うのが正直な感想です。
ニックやワッツやメイが呟く、人の思い出や時の流れを表す台詞が美しかった。
街や道路、煌めく水面のどうしようもないほどの美しい水没都市を背景に、切ない時間の推移と廃墟の街、そして過去への遡行を止められない人の精神の営みが作り出す、特異なディストピア。
水を介して行われる過去の記憶への潜入は、つまり、たとえ一人分の記憶の世界であっても、それは底無しの海に等しいと言う事実を表現していたのでしょうね。都市もいつかは、海の中の記憶になる。
やはりラブストーリー
筋書きはサスペンスとしては、ややぼんやり、かつ如何にも用意されていた感もありました。
軍隊経験を共にするニックとワッツを軸に、そこに突然現れて消えたメイの謎を解き明かす筋書きと、地主一家の相続争いが別線で進む。麻薬組織のジョーのそばにメイが居たことで、ニックの心は乱れっ放しになるが、メイの過去にはジョーと、女友達のエルサが絡み、エルサの過去には地主のシルバン一家と悪徳デカのブースが絡んでいた。メイはエルサの息子を救った後に命を落とす。でいいと思うのですが、メイとエルサの関係が大事な割に、はっきり示されていなかったような。
夢にも似た記憶の世界へ
所々が切断され霞んだストーリーが、ニックの記憶捜査により繋がれていく。ニックが度々、画面の手前に現れては、また通常に戻る進行のせいで、見る側も次第に、記憶の世界に引きずり込まれていきました。
監督と脚本家の力により、記憶と夢が重なり合う場所まで、ずーっと落とされていく快感。
それとニックとブースが、廃ビルの部屋や屋上でドッグファイトを繰り広げるシーンも、緊迫したものであるのに関わらず、部屋の内外の陰影や水の形が絡んで、まるで夢の中での格闘シーンを見せられているようでした。
あまりに優雅なアクション映像。
過去へ未来へ
過去が自分ならば、未来は見も知らぬ他人な訳ですね。ニックは未来を切り捨てました。私はどうしようか。
しかし地主に対して抗議運動を起こした人々のお陰かも知れませんが、未来を選んだワッツたちにも、光は射したようですね。この終わり方には、少なからず拍手したいです。