「本作で描く近未来の物語から窺える人類普遍の本能」レミニセンス スモーキー石井さんの映画レビュー(感想・評価)
本作で描く近未来の物語から窺える人類普遍の本能
舞台は地球温暖化による海面上昇で土地が水に浸かった近未来の戦争後のマイアミ
戦時中は拷問用として使用されていた「記憶潜入装置」
戦後、それをあえて幸せだった頃の記憶に浸りたい顧客のニーズに合わせて、過去を反芻(再体験)させるサービスのため、その装置を提供する主人公とその相棒
その店にのちに主人公と恋仲となる女性が現れるのだが、その女性が失踪したところから物語が本格始動する。
盲目的なまでに失踪した謎多き彼女を追う主人公
そして、全ての真相が詳らかになったあとに訪れる結末とは?
「知らぬが仏」という諺のとおり、現実的には
過去を掘り返すのはあまり良いことではない。ましてやこういう色恋沙汰で自分の記憶だけをあてにし過去を美化し、それに固執することは愚かさ極まりない。
当然、主人公も証人の記憶に潜入する過程で見たくなかった現実に苦しめられることになるのだが。
そして、劇中に漂う「いずれ沈没するくらいなら幸せだったときの記憶に溺れたい」という虚無感と現実逃避をしてしまう人々の心情は理解できなくはない。
それは深層部分でどんな時代でも誰もが抱えてしまうある種の弱さであり、分岐点でもある。
幸福感に浸れる記憶が多いほどに人生はきっと豊かになるものなのだろう。
終盤、ある人物のセリフでも言及しているが、それは「悲しみ」を経験してこそなのかもしれない。
ともあれ、予想していたものとは趣きも異なり、良い裏切りもあるので、大切な方と一緒に観てみてもいい作品なのかもしれない。