劇場公開日 2021年9月17日

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「孤独な中年男ニックに愛おしさを感じた」レミニセンス 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5孤独な中年男ニックに愛おしさを感じた

2021年9月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 映画紹介にあるエージェントという言葉を誤解していた。アメリカ映画でエージェントと言えば、大抵はCIAその他の国家組織の現場工作員のことなので、本作品も近未来にあるなんらかの国家組織の話なのだろうと思っていた。地球温暖化が進行して、各地が水没しつつある世界で、国家間の争いか、巨大化した悪徳民間企業と国家の争いで活躍するエージェント。そんな想定をしていたのである。
 ところが本作品でヒュー・ジャックマンが演じたニックは、自営業の回想提供業者であり、客の回想(レミニセンス)を案内するエージェントだ。旅行代理店(トラベルエージェンシー)の代理人(エージェント)と殆んど同じである。簡単に言うと商売人である。イーサン・ハントとは大違いであった。
 つまり本作品は、国家組織のエージェントが世界中を舞台に八面六臂の活躍をする壮大なドラマではなく、商売人と客の切ないラブロマンスであると同時に、ミステリアスなヒロインの危険な過去に踏み込むことで主人公も危機にさらされるという、至って個人的なサスペンスである。
 地球温暖化に立ち向かって世界の平和を守る主人公を想定していただけに、激しく肩透かしを食った気がした。しかし最初からこぢんまりとしたストーリーだとわかって観れば悪くなかったと思う。

 世界各地が水没して、高台の地主が世界を支配するという設定や、回想するのに体温と同じお湯に横になるというアイデアは秀逸。雨のようなワイヤーディスプレイが回想を立体的に映像化するのも観ていて解りやすい。
 レベッカ・ファーガソンが演じたヒロインのメイの登場シーンは、女優を美しく撮ることに長けているハリウッド映画らしさに感心したが、あんまり顔をドアップにするのはよろしくない。細部まで鮮明に映し出すIMAXのスクリーンでは美人のファーガソンといえどもアップに耐えられないと感じられた。
 暴力シーンが何度か登場するが、必然性に欠ける憾みがある。なんでもドンパチすれば観客が喜ぶと思ったら大間違いで、本作品のようにいずれ全世界が水没してしまうという絶望的な状況では、どんな人間も哲学的になるはずで、ニックと悪役の哲学的な会話で虚無の雰囲気を出してほしかった。希望のない状況では感情は内に向かう筈で、暴力とは正反対の精神性が支配的となる。そのあたりの世界観の構築がまったくできていなかった。

 という訳で世界観を考えれば褒められた作品ではないが、孤独な中年男の最後の恋物語という面では、センチメンタリズムに訴えかけるところがある。男はいくつになっても少年の魂を持っている。分別だけが人生ではない。世界の終わりが迫っていても、目の前の女を追いかける。人生はそんなものだ。中年男ニックに、妙な愛おしさを感じた。

耶馬英彦